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なぜキリスト教は世界最大の宗教になったのか

タイトルの疑問は私が20才前後でキリスト教の教養本を始めて読んだ頃から長年持っているものです。本の名前は忘れましたが、「イエス自身は新しい宗教を始めるつもりはなかった」と書かれていました。同様の見解は他のキリスト教の本で何回も見つけましたし、「(新約聖書の)教えは(旧約聖書の)律法を否定するものではありません」という言葉は新約聖書にもあります。イエスユダヤ人でユダヤ教徒であり、ほぼ全てのイエスの直弟子たちも同様です。イエスは新しい宗教を始める意図など毛頭なく、イエスの直弟子たちもイエス新興宗教の教祖とは思っていませんでした。まして神とイエスを同一視などしていません。

それにもかかわらず、イエスを神と同一視するキリスト教(厳密にいえばキリスト教アタナシウス派)が現在、世界で最も多い信徒数を獲得しています。いつ、なぜ、キリスト教なるものが教祖の意図に反して産まれて、世界中に広まったのでしょうか。

この疑問のうち、キリスト教が世界中に広まった理由の答えは、それほど難しくありません。大航海時代産業革命を先導し、世界中に植民地を広げた国家群がヨーロッパにあり、ヨーロッパではローマ時代からキリスト教が国教だったからです。

だから疑問は「キリスト教は誰がなぜ作り出したのか」「イスラエルで生まれたユダヤ人のキリスト教がどうしてローマ帝国に広まったのか」などになります。

キリスト教は誰が作り出したのか」の答えは、「パウロ」だと私は10年間くらい考えていました。その根拠は、新約聖書パウロの役割の大きさにあります。新約聖書は、福音書(イエスの生涯)、使徒言行録(イエスの弟子である使徒たちがどうキリスト教を布教したか)、使徒の書簡(使徒たちの手紙)、黙示録(難解な詩)の4部門から成ります。4部門のうち2部門、使徒言行録、使徒の書簡の中心人物は明らかにパウロです。新約聖書そのものでもそうですが、キリスト教の解説本になるとより露骨で、イエスの生涯(福音書)の後、パウロの生涯の話が続くのが一般的です。

しかし、「聖書時代史 新約篇」(佐藤研著、岩波現代文庫)などを読んでいって、パウロキリスト教創始者と断定するのはおかしい、と分かってきました。実在のパウロキリスト教創始者というほどキリスト教会に貢献していません。キリスト教の中で、パウロは神格化されている、とまでは言えないにしろ、実像よりも格段に偶像化されています。初期キリスト教世界で、異教徒や異邦人への布教に邁進した人はパウロ以外にもいたはずですが、それらの貢献のほとんどがパウロ一人に集約されているようなのです。しかし、紙も印刷技術も拡声器もない古代ローマで、一人の人間が布教できる範囲は限られています。パウロだけの力でキリスト教徒が爆発的にローマ帝国に広まったとは考えられません。それにパウロは初期キリスト教世界で、それほど重要な地位ではありません。パウロの現実の生涯を知れば知るほど、ローマ帝国でのキリスト教布教で、パウロの貢献は微々たるものであったと分かってきます。

そうなると「キリスト教創始者パウロでないなら一体誰なのか」という問題が再び出てきてしまいます。また「なぜローマ帝国キリスト教が広まったのか」という問題も残ります。

それを知りたくて、20冊以上は初期キリスト教の本を読んでいますが、いまだよく分かっていません。「名もない初期キリスト信徒たちなのだろうか」「どこまで調べても今からでは分かりようがないのだろうか」と考える程度です。もし答えを知っている方は、根拠も含めて、下のコメント欄に書いてもらえると助かります。

キリスト教の謎」の記事に続きます。