未来社会の道しるべ

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診療報酬制度

日本の皆保険制度では、ほぼ全ての病院、ほぼ全てのクリニックが厚生労働省の定める診療報酬制度に従って収入を得ています。血液検査などの各種検査の費用、肺炎などでの各種入院費用、虫垂炎などの各手術の費用は、全国一律で決まっています。病院によって、あるいは、医者によって、その費用が変わることはありません。その診療報酬は2年ごとに改訂されます。

5年くらい前でしょうか。科別に計算すると、ほとんどの病院で眼科が一番利益を出していた時代があります。眼科専門医は引く手あまたでしたし、開業した眼科医も少なくありませんでした。眼科医が儲かった理由は、白内障手術の件数が増加したからです。白内障高齢になれば必ず罹患して、短時間の手術で簡単に治ります。

これでは不公平と考えた厚生労働省は、白内障手術の診療報酬を一気に下げます。こんな単純な方法ですが、眼科医が引く手あまたの時代、眼科医の開業が増える時代は、あっさり終わりました。今でも日本眼科学会はこの診療報酬改定に不満を表明しているようですが、私の知る多くの良心的な眼科医は「確かに簡単な手術だし、それは仕方ないだろう」と言っています。ちなみに、白内障手術件数はその手術報酬が減った後も増加しています。

また、最近の診療報酬では、訪問診療に高い点数(=報酬)をつけています。日本では病院で亡くなる人の割合が非常に多いのですが、このまま高齢者が増えると、外国と比べて多い日本の病院ベッド数でも、足りなくなってしまいます。自宅で最期を迎えられるように、訪問診療する医師を増やしたいので、厚生労働省は、その診療報酬を上げているわけです。そして、診療報酬増加の通りに、訪問診療する医師が増えています。

ただし、この訪問診療の優遇策はいつまでも続かない、と良心的な訪問診療医は予想しています。これまでも、厚生労働省は足りない医療の診療報酬を上げて、その医療が充足してくると、その診療報酬を下げる、という手法を取ってきました。その政策を、金儲けしか考えない医者は「ハシゴをはずされた」と不満を言ったりしますが、良心的な医者は最初からその流れを見越していますし、診療報酬引き下げに不満を言うこともありません。

このように、専門によって不公平がないように、また、必要な医療を増やし無駄な医療を減らすように、厚生労働省は診療報酬を改定して調整しています。

診療報酬制度には医者の技量によって報酬が変わらないなどのデメリットもあるのですが、メリットも確実にあることは注目すべきでしょう。