未来社会の道しるべ

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やってダメなら元に戻す

「生きる職場」(武藤北斗著、イースト・プレス)は興味深い本でした。

「好きな日に好きな時間帯に出勤できる」「嫌いな仕事はしない」などのルールが注目されるでしょうが、むしろ著者の職場観について私は同意します。

仕事からの喜びやストレスは、仕事内容よりも職場の人間関係によって決まると著者は考えています。私の意見だと、寄与度は仕事内容:人間関係=1:2です。日本人でもカナダ人でも、この意見にだいたい同意してくれます。

「やってダメなら元に戻す」方針も、日本の多くの組織が見習うべきでしょう。著者は「好きな時間帯に出勤できる」制度を提案したとき、従業員たちにこう言ったそうです。

「さすがにこれは難しいかもしれないので、2週間だけの限定で行います。きっと元に戻すことになると思うけど、そのときは残念がらないでくださいね。この2週間が自由なだけでもラッキーと思ってください」

私の座右の銘の一つに孫氏の兵法の「知者の慮は必ず利害に雑う」があります。「利益を得ようとするときは、それが失敗した時の損失も考えなければならない。損失を被ったときは、そこから得られる利益も考えなければならない」として私は捉えています。上の失敗した場合を考慮した言葉がけは、これを体現しているように思います。

「好きな日に好きな時間帯に出勤できる」「嫌いな仕事はしない」は、偶然、著者の職場でうまくいった、とは私も思います。しかし、「世界中で著者の職場だけでうまくいく」はずはありません。著者の工場のように、導入してみたら職員のストレスが減っただけでなく、生産性も上がったりすることもあるでしょう。「やってダメなら元に戻す」の精神で、多くの職場に試しでいいので導入してみてはどうでしょうか。