「お金持ちの経済学者なんて歴史上一人もいない。この事実こそが経済学が机上の空論の証拠である」
よくある批判です。現実には、「(私がもらった)8400万円なんて少しですよ」と問題発言をして炎上した竹中平蔵のように、お金持ちになった経済学者はいるので、上の批判は事実ではありません。ただし、竹中平蔵がお金持ちになったのは官民癒着によるもので、自身の経済理論で経済の動きを予想してお金持ちになったわけではないように、いまだ世界中の経済学者が「いつバブルが崩壊するのか」「そもそも今はバブルなのか」といった基本的な経済の動きすら正確に予想できていないのは事実です。
たとえば、「どれほど優秀な経済学者が難解な数式を駆使しても短期の経済の動きを予想できないことは事実だが、長期的に経済全体が発展していくことは間違いないので、長期の積み立てインデックス投資(経済全体投資)だと、ほぼ確実に利益が出る」という理論があります。日本政府もその理論をもとに、NISAやIDECOを推奨して、私を含めた数千万人の日本人が加入しています。数千万人の日本人の現金が毎月着実に株式市場に流入したので、1990年のバブル絶頂期を越えるほどの株高になってしまっています。このブログを読むほどの人なら分かっている通り、文句のつけようのないバブルです。
経済学が証明した唯一正しい理論は「ほぼ確実に利益が出る投資など存在しない」ことでしょう。短期だろうが、長期だろうが、存在しません。なぜなら、長期だとインフレ、国債デフォルト、預金封鎖、財産没収などが起きる可能性も高くなるからです。せっかく投資したNISAやIDECOが実質上全てなくなる可能性も高いことは、経済の大原則として覚えておくべきです。
繰り返しますが、「高確率で利益が出る投資」という理論は、全て嘘です。そもそも、投資とは、どんなに難しい理屈をこねくり回しても、実質的には誰かにお金を貸すことです。銀行にお金を預けていたら(「預ける」と「貸す」は、誰かに渡している点で同じ)、名目上(額面上)の預金は利息で増えますが、預金の利息率は銀行の投資利益率をまず下回ります(もし上回っていたら、その銀行は損失を出していることになります。そのまま銀行が損失を出し続ければ、いずれ倒産して、理論上、その銀行に預けていたお金は全て失われます)。どんな投資であれ、それこそ預金であれ、リスクは絶対にあります。現在の日本政府のように、銀行の預金リスクを無理やり政府が引き受けると、国債デフォルトなど、他のリスクが高まります。
何度でも書きすが、「お金をどこかに置いていたら、自然とお金が増えていた」なんて魔法は存在しません。経済学を出すまでもなく、常識で考えても、科学的に考えても、普遍の真理です。銀行預金だけは、株式だけは、〇〇投資だけは××だから違う、と世界史上の何十億人が信じてきましたが、例外なく裏切られてきました。
基礎理論を繰り返して申し訳ありませんが、投資とは、AさんがBさんたちにお金を出して、Bさんたちが働いてそのお金を増やして、Aさんが増えたお金を返してもらう行為です。普通に考えて、お金が増えたのは、働いたBさんたちの功績です。だから、Bさんたちの方が多くの利益を得るべきなのですが、自由経済では往々にして、多数の労働者の一人であるBさんの利益より、お金を出しただけの少数の資本家のAさんの利益が遥かに多くなります。この道徳に反する流れが、自由経済では普通に生じるのです。だから道徳を重視するイエスキリストがエルサレムの金融業者に激怒し、地主や資本家の富の独占を防ぐ「公地公民」や「農地改革」や共産主義が歴史に登場しています。資本主義社会でも20世紀になってから累進課税や相続税が生まれ、資本家から多くの税をとり、生活保護費などの社会保障に税が使われています。これらの政策は社会的弱者を救うためでもありますが、経済学的にいえば、バブルの発生を防ぐためにもなっています。
これも私が言うまでもないでしょうが、一般的な投資よりも、株式投資で特にバブルが生じやすいのは、複利だからです。複利のような倍々ゲームで利益が出るなんて、異常です。私は複利のリスクをろくに理解せず、節税対策としてIDECOにうっかり入ってしまい、ありえないほど「未来の利益」が計上されるのを見て、青ざめて、ようやくリスクに気づきました。だから、こうまで偉そうに書いていながらも、私も「お金をどこかに置いていたら、自然とお金が増えていた」という魔法を信じたバカの一人なのです。
現在の日本の株高はバブルなので、遅かれ早かれ、バブル崩壊します。インフレが起きたりして、NISAやIDECOの「未来の利益」も吹っ飛びます。私が気になるのは、この必発の株式バブル崩壊と、やはり必発である国債デフォルトは、同時に起こるのか、という点です。
現在の株式バブルさえ、経済学者は正しく判断できていなかったりするので、株式バブル崩壊と国債デフォルトが同時に起こるかどうかも、経済学者は正しく予想できないでしょう。そう考えると、やはり冒頭の批判、つまり「経済学は机上の空論である」は正しくなります。批判通り、経済学者なんて、社会に不要なのかもしれません。少なくとも、現在のあからさまな株式バブルの危険性を指摘しなかった経済学者は、バブル崩壊後、退職させる契約を今のうちにしてもらえないでしょうか。