日本が経済的困窮を脱却するため満州事変を始め、石油が欲しかったので太平洋戦争を始めたことは、よく知られています。歴史上のほぼ全ての戦争と同じく、日本が十分に豊かなら、アジア太平洋戦争など起きませんでした。
ただし、日本の同盟国であったドイツも、経済的理由から第二次世界大戦を始めたことは、私もよく知りませんでした。
ナチス・ドイツは世界恐慌で数百万人に膨れ上がった失業者をゼロにした「功績」があります。現在も国中に張り巡らされたアウトバーンはナチス・ドイツの唯一の「功績」だと私も考えていました。しかし、「検証ナチスは『良いこと』もしたのか?」(小野寺拓也著・田野大輔著、岩波書店)を読んで、必ずしもそうでないことを知りました。
アウトバーンなどの大規模公共事業と軍備拡張により、ドイツでは失業者が大幅に減って、経済が活性化しましたが、なんの副作用もないわけがありませんでした。政府はそのために莫大な借金をしています。誰が公債(ナチス・ドイツは国債ではなく公債と呼んだようです)を引き受けたのでしょうか。もちろん、ドイツ国民です。第二次世界大戦前から、日本もドイツも、巨額の国債・公債を自国民に買わせていました。
ナチス・ドイツは障害者への福祉を切り捨て、裕福なユダヤ人たちから金銭を接収していましたが、それらを帳消しにして余りほど軍備にお金を使うので、借金に借金を重ねます。国の借金を返す当てはあったのでしょうか。全くありませんでした。それでも、ヒトラーは「大丈夫だ」と公言して、問題の本質から目を逸らしていました。
このままなら公債デフォルトになります。それを避けるため、というより、ごまかすためには、戦争しかありません。戦争して、他国から搾取すれば借金はなんとかなると期待していたのです。現実には、その逆でした。他国からの搾取を遥かに上回って、軍事費は増えました。必然的に、借金はさらに増えて、国民は公債を買わされます。第二次世界大戦中、日本も同じ道を辿ったのは周知の通りです。言うまでもなく、戦後、ドイツの天文学的な額に達した公債は全て紙くずになります。ドイツの実質的な公債デフォルトは戦争してもしなくても、必ず起きていました。ドイツの実質的な公債デフォルトは戦争により延期され、悪化されただけでした。これも日本と同じです。
ところで、第二次世界戦時中、「これだけ膨大な国債など返せるわけがない。日本で国債デフォルト、もしくはハイパーインフレは必ず起こる」という意見に対して「日本の国債は日本国内で処理されているので問題ない」という返答が頻出していたのは、今と全く同じです。戦後のハイパーインフレと預金封鎖(実質的な国債デフォルト)で「国債が自国内で処理されているので問題ない」は間違いだったと嫌というほど知ったはずなのに、なぜ日本人は「国債が自国内で処理されているので問題ない」と今も言い続けるのでしょうか。私にとって10年ほど解けない謎です。