「イジメは不登校の一番の原因ではない」は多くの統計で証明されています。たとえば、文部科学省の「令和2年度不登校児童生徒の実態調査」では次のようになっています。
もっとも、1980年代までイジメが原因で自殺しても、親がそれを恥じて自殺どころか、事故死と処理した事実は多くあります。隠されたイジメ自殺が数百あるいは数千あったことは決して忘れるべきでありません。
一方で、イジメを恐れるあまり、不登校の段階で本人の意思を尊重しすぎる弊害もあることを現場教師なら、ほぼ全員気づいているはずです。
なお、「子どもの自殺の一番の原因はイジメでない」は精神科専門医試験にも出た問題の答えです。子どもの自殺願望を安易にイジメと結びつける弊害を精神科学会が指摘したかったのでしょう。
常識的に考えれば分かる通り、自殺はたった一つの要因で起こることは稀です。
「漂流児童」(石井光太著、潮文庫)で精神科医の張賢徳はこんな例をあげています。
「G君という男子中学生がいたとしましょう。G君は幼い頃から発達障害を抱えていた。親は発達障害に理解がなく、なんとかG君に言うことを聞かせようと手を上げるようになった。彼は親に暴力をふるわれながら小学校を卒業したものの、進学したのは不良がたくさんいて荒れている中学校だった。そこで、不良たちに目をつけられ、G君のおかしな言動のため、いじめにあうようになった。G君は家にも学校にも居場所がなくなり、うつ病になって『死にたい』と言い出した。でも、学校の先生も親も本気と受け取らず『バカ言わないで』と突き放した。そして残念なことに、G君は自殺をしてしまった。この場合、G君の自殺の要因を何にすればいいでしょうか。発達障害だったことでしょうか。親が暴力をふるったことでしょうか。それともいじめ? あるいはうつ病の症状として生じる希死念慮のせいでしょうか」
この症例なら、私だと「イジメ」が原因と断定します。もっとも、学校、親、発達障害にも原因があることも認めます。
同じ文科省調査で、私が最も注目したアンケート結果が次になります。
この結果は私の精神科医としての実感とも合致します。特に、成熟している人ほど不登校を後悔しています。だから、小学生だと「不登校してよかった」より「もっと登校していればよかった」が2倍なのに、中学生だと不登校してよかった」より「もっと登校していればよかった」が3倍と増えているのも納得できます。
「『自己肯定感』『自尊感情』という言葉を使うべきでない」にも書いた通り、しょせん、人間は自分が一番かわいいのです。反省したり、自己批判したりするのは、成熟した人間でないと難しくなります。だから、精神的に成熟している中学生が小学生より不登校を反省できるのでしょう。
もっとも、不登校を全く認めるべきでないと私は一切思っていません。「ネット教育を一般化すべきである」を教育改革として私は提案するくらいなので、学校教育よりもネット教育が適切な人まで、無理やり学校に行かせるべきとは思っていません。
しかし、上記のようなアンケート結果があることを知って、本人の「行きたくない」の一言で、簡単に不登校を認めることも問題であると知るべきです。
不登校は学校の状態、家庭の状態、本人の状態などを総合して対処すべき問題です。不登校は学校の問題であり、家庭の問題には踏み込めない、と主張する人は学校側にも家庭側にもいますが、明らかな間違いだと断定します。