未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

補聴器詐欺の被害額推計

医者になってから、補聴器詐欺にひっかかる患者さんに5人くらい会ったでしょうか。

私が補聴器について聞いた高齢者患者さんはせいぜい50人くらいでしょうから、難聴の高齢者の10人に1人くらいの確率で騙されているのかもしれません。

こちら厚労省情報だと難聴患者は1430万人もいるので、143万人が被害にあっている可能性があります。

難聴患者の多くは感音性(振動を電気信号に変える器官の障害)で、伝音性(振動を伝える器官の障害)ではありません。補聴器は伝音性難聴を改善するための医療機器であり、感音性難聴には理論上無効です。確かに、感音性に効果が全くないと断定できませんが、通常は微々たるものです。これは医者なら何科であろうと知っている耳鼻科の基本中の基本です。看護師であっても、こんな簡単な医療理論は知っているべきです。

また、本当に補聴器に効果のあるほどの難聴なら障害者認定されるので、耳鼻科医が適正に診断すれば、補聴器も公費負担されます。もっとも、高齢の難聴者であれば、音の電気信号が脳に伝わっているが、脳が適切に処理できていない、つまり脳中枢の障害(認知症)の可能性も高いです。だから、聞こえの悪い認知症患者を全例障害者認定するなんて、公費の無駄はしていないはずです。

お金の面から判断すれば、補聴器に30万円以上かけた人は、私の経験上、全員詐欺にあっていました。その全員が、結局、「つけてもあまり変わらない」「つけるのがうっとうしい」と装着を継続していませんでした。ひどい人は100万円かけていた例もありました。相場を少しでも調べればおかしいと気づいたはずなのに、と思わずにはいられませんでした。

難聴詐欺では、日本中で143万人が50万円程度の被害にあっていると仮定するなら、被害額は約7000億円です。250床規模の総合病院を100個造れるほどの額です。大雑把な推測なので2倍程度の差はあるとすると、1兆4000億円から3500億円程度の詐欺被害になります。

これほどの莫大な額の詐欺は、日本中探してもそうそうないと思います。なぜマスコミが補聴器詐欺について大きく報道しないのでしょうか。10年以上解けない社会の謎の一つです。