「アメリカは日本の防衛義務がある」
多くの日本人はそう考えています。外務省のHPにもそう書かれていますし、全ての日本の外交政策はそれを前提に進めています。
「日本にある米軍基地の7割は沖縄に集中している」
沖縄問題でよく出てくる事実です。鳩山由紀夫元首相が主張したように、これを解決するためには「沖縄の米軍基地を日本のどこかに移動する」か「沖縄の米軍基地を日本から撤去する」のどれかを選択することになります。このうち「沖縄の米軍基地を日本から撤去する」は論外と、ろくに検討すらされません。なぜなら「日本は世界最強の米軍が守ってくれている。米軍がいなくなれば、日本の安全保障は維持できない」からです。
米軍の抑止力がなくなれば、北朝鮮が遠慮なくミサイルを撃ち込むかもしれない、ロシアが攻めてくるかもしれない、最低でも中国は尖閣諸島を占領するに違いない、などと日本人は考えているようです。
しかし、実態は、アメリカは日本を防衛しないし、する気もありません。
多くの日本人はこれを戯言や陰謀論と考えるでしょう。10年以上前に「戦後史の正体」(孫崎享著、創元社)を読んだ私も半信半疑でした。しかし、それから10年たって、「日本が攻められた時、アメリカは日本を防衛しなければならない」は嘘だと確信したので、今回記事にしています。
アメリカの日本防衛義務は、新日米安保条約の第5条を根拠とされています。これは以下の文になります。
「各締約国(日本とアメリカ)は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宜言する」
一方、アメリカのNATO加盟国の防衛義務は以下のNATO条約第5条を根拠としています。
「条約締結国(1カ国に対してでも複数国に対してでも)に対する武力攻撃は、全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃が発生した場合、全締結国は国連憲章第51条に規定されている個別的自衛権または集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し平和を維持するために必要と認められる軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する」
一読しただけで、なにが違うか分からないでしょう。最大の違いは、日米安保条約に「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」がある点です。つまり、たとえ日本が攻撃されても、アメリカ政府が拒否すれば、アメリカは日本を防衛しなくてもいいのです。
もっとも、それが本質でもないと私は考えます。本質は、アメリカはNATO加盟国を守る意思は強くても、日本を守る意思が弱いことです。もちろん、ほぼ全てのアメリカ人は日本を同盟国だと考えていますし、日本が北朝鮮や中国から攻撃されたら、激しい非難はします。しかし、そのためにアメリカが北朝鮮や中国に武力で報復するかどうかは、場合によるとしか言いようがありません。だから、義務ではないのです。
たとえば、「尖閣諸島で日中が戦争すれば」で書いたように、尖閣諸島に中国が攻めてきたら、日本は確実に負けます。ただし、かりに日本が負けても、日米安保条約により、アメリカが日本を助けてくれる、と考えている日本人は少なくないでしょう。あるいは、これが日本の公式見解なのかもしれません。
残念ながら、その可能性はほぼゼロだと断定します。確かに、2010年にもヒラリー国務長官が「尖閣諸島は安保条約の対象である」と明言していますし、外務省のHPにも尖閣諸島が日米安保条約の対象である証拠がいくつか載っています。これについての反論も私は書けますが、そこは重要でないので省略します。
重要なのは、「尖閣諸島で日中が戦争すれば」にも書いたように、こんなアメリカ本土から遠く離れた無人島のために、アメリカが中国に武力攻撃するわけがないことです。もっと書けば、「アメリカは中国に負ける」(孫崎亨著、河出文庫)によると、尖閣諸島で中国とアメリカが戦争しても、アメリカが負けるとアメリカのランド研究所などが予想しています。
もっとも、「なぜアメリカは朝鮮戦争に参戦したのか」に書いたように、中国の共産主義化を見逃したアメリカがなぜか朝鮮半島の共産主義化を全力で阻止したりしたので、論理的に、尖閣諸島のためにアメリカが中国と武力衝突する理由はないのですが、非論理的に、アメリカが中国と武力衝突する可能性はあります。ただし、その可能性は極めて低いと日本人は知っておくべきです
ところで、かりに中国が尖閣諸島を軍事占領して、アメリカがなにもしなかったとしたら、日本はアメリカに日米安保条約違反だと批判するのでしょうか。
その可能性は低いと推測します。十中八九、日本政府は「アメリカに日本の防衛義務はある。日米安保条約にある通り、アメリカの手続きに従って防衛義務は履行される」と真顔で言うでしょう。「なにを言っているんだ! 日米安保条約の対象範囲と明言されていた尖閣諸島が中国に攻撃されたのに、現にアメリカはなにもしてくれなかったじゃないか!」と批判する国会議員も必ず出てきますが、「日米安全保障条約はなんら変わっていないので、これまで通りにアメリカに日本の防衛義務はあると解釈しております」と言い逃れをするに違いありません。
「日本が攻撃されても、アメリカ政府が拒否すれば、アメリカは日本を守らなくていい」なら、「日本にアメリカの防衛義務はない」と普通なら解釈します。しかし、「陸海空軍その他の戦力を保持しない」憲法を持つ日本が、陸海空軍を持っているのですから、その正反対の解釈も成り立つのでしょう。
だから、尖閣諸島を中国が実行支配して、アメリカがなにもしなかったら、「アメリカには日本の防衛義務がある」は嘘だった、と日本人の多くが気づくかと問われたら、私は「気づかない可能性が高い」と答えざるを得ません。
そもそも、日米安全保障条約および日米地位協定は、本質的になんのためにあるかと言えば、GHQ時代の占領軍(米軍)に認めていた特権を継続させるために存在しています。では、占領軍はなんのために日本にいたのでしょうか。その理由は一つではありませんが、最大の理由といえるものが、日本が再びアメリカの敵国になることを防ぐためです。
だから、日米安保条約で「アメリカが日本を守ってくれる」というのは間違いで、「小沢一郎の『自衛隊の国連軍化』案」に書いたように、日米安保条約で「アメリカは日本の再軍備を防ぎたい」のです。在日米軍の仮想敵国は、中国やロシアや北朝鮮も含まれるにしろ、最大の敵は日本なのです。実質は「米軍は日本を攻撃するためにいる」のに、名目は「米軍は日本を守るためにいる」と大嘘をついています。その大嘘に占領統治終了後70年間も、上から下まで騙され続けている、世界史上稀にみるおめでたい国民が日本人です。
ここまで見事に騙され続けている国は、他にないでしょう。日本同様、アメリカが武力で攻め込んで、現地に親米政権を樹立させた国は、21世紀だとアフガニスタンやイラクがありますが、どちらも日本人ほどうまく騙せていません。
孫崎によると、CIA不要論はこれまで何度も出てきましたが、そのたびにCIAは「日本を見ろ。あれこそCIAの傑作だ」と主張するそうです。全くその通りです。
「陰謀論もいいかげんにしろ。孫崎に洗脳されすぎだ」
そんな反論が聞こえてきそうです。10年前、私も半信半疑でした。しかし、10年間、どんな本を読んでも、上記の孫崎説を覆せる証拠は見つけられず、むしろ、孫崎説が正しい証拠しか見つけられませんでした。
この仮説をすぐには信じられないにしろ、かりにこの仮説が事実であれば、この日米同盟の本質を日本が見抜けない限り、日本が「like a boy of twelve」から脱却できないことは同意してもらえるのではないでしょうか。
枝葉末節の反論はいくらでも出せることは知っています。このブログで無益な議論をするつもりもありません。それを知った上で、本質的な反論をしたい方は、下に書いてもらえると嬉しいです。