10年以上前、「戦後史の正体」(孫崎享著、創元社)を初めて読んだ時の衝撃は忘れられません。「60年安保のデモはアメリカが仕組んだものだ」、「立花隆の出世記事『田中角栄研究~その金脈と人脈』は当初誰も驚かなかった。アメリカが大ニュースに仕立てあげた」などを検証可能な証拠をあげながら、元外務官僚の孫崎が主張しています。さらには、戦後の歴代首相はほぼ全員、反米だとアメリカの陰謀で潰されていることを示しています。
その後、「知ってはいけない」(矢部宏治著、講談社現代新書)を読んで、日本が第二次大戦後の占領軍と同様の特権を今もアメリカ軍に認めていると知って、「戦後史の正体」のその部分は事実だったと改めて認識しました。
「戦後史の正体」には、寺崎太郎という元外務次官の次の言葉を引用しています。
「周知の通り、日本が置かれているサンフランシスコ体制は、時間的には平和条約(講和条約)―安保条約―行政協定(今の地位協定)の順序でできた。だが、それがもつ真の意義は、まさにその逆で、行政協定のための安保条約、安保条約のための平和条約でしかなかったことは、今日までに明らかになっている」
「地位協定のための安保条約、安保条約のためのサンフランシスコ講和条約」は本質を突いているせいか、孫崎の他の本で何回も出てくる言葉です。
「日本は今も不平等条約を結んでいる」にも書いた通り、日米安保条約と日米地位協定と日米密約には、以下のような公式が成立します。
「古くて都合の悪い取り決め」=「新しく見かけのよい取り決め」+「密約」
この公式は、既に1951年には使われていました。たとえば、1951年の行政協定には「アメリカは駐留を希望する地点について、講和発効後90日以内に日本側と協議し、日本側の同意を得なければならない。ただし90日以内に協議が整わなければ、整うまで暫定的にその地点に留まってよい」という規定がありました。つまり「日米で話し合いがまとまらなければいつまでも米軍基地はあっていい」のです。これでは10年、20年、場合によっては50年後も、日本に米軍基地が駐留する可能性もあります(実際は50年どころか、70年以上駐留しています)。これでは独立する意味がありません。それに気づいた宮沢喜一(当時は大蔵官僚)などが外務省にこの規定を削るように要望しました。そのため、行政協定からこの規定は消えたものの、「岡崎・ラスク交換公文」に同じ規定が書き込まれていました。「交換公文」は公には発表しないが、行政協定とほとんど同じような効力を持つらしいので、実質的な密約です。つまり、米軍駐留権を吉田首相が認めたからこそ日本の独立を認めたので、本来はサンフランシスコ講和条約に明記すべきですが、こんなアメリカによる日本の主権侵害条項を48ヶ国も署名する書類に入れられるはずもなく、だとしたら日本とアメリカだけの日米安保条約に入れるべきですが、国会の批准時に大反発は必至なため、こっそり行政協定に入れましたが、それでも宮沢喜一らが反対したので、「交換文書」という非公式の約束にしたのです。
なお、この岡崎・ラスク交換文書で出てくる「岡崎」とは吉田内閣での外務大臣です。「戦後史の正体」によると、吉田は対米追従路線の創始者で、岡崎は吉田の腰ぎんちゃくです。
サンフランシスコ講和条約まで、日本はGHQに実質的に支配されていました。だから、当時の日本の主要政治家たちが、「売国奴的行為(戦後史の正体の表現)」をしたのは無理もないかもしれません。しかし、それから70年たった今も、「アメリカが望むだけの軍隊を、望む場所に(日本の全ての場所に)、望む期間だけ駐留させる権利を持つ」状態が続いているのはなぜでしょうか。
本によると、鳩山由紀夫元首相が辞任したのも、鳩山が「普天間基地を最低でも県外」と主張したことが原因です。それだけが原因のわけがないと私も考えますが、普天間の県外移転案が他の多くの政治家やマスメディアから批判されたことは、私もよく覚えている事実です。「既に辺野古移転で日米合意している」「日米関係が損なわれる」「海兵隊は沖縄にいるからこそ抑止力になる」などが主な反対理由ですが、孫崎が言うように、説得力のある反論と思えません。むしろ、「普天間基地を最低でも県外移転」との鳩山首相の意見に、同じ民主党の北沢防衛大臣や岡田外務大臣までが反対する方が異常です。たかが普天間基地の県外移転すらできないのなら、ましてそう主張するだけで首相のクビが飛ぶのなら、日本から全ての米軍基地をなくすなど、夢のまた夢なのも事実です。
「日本は今も不平等条約を結んでいる」で書いたように、日本は米軍および米軍関係者に、米軍基地内だけでなく米軍基地外でも、治外法権を認めています。朝日新聞は「在日米軍人が、2008年1月から11年9月に日本国内で起こした公務中の交通遺事故28件(死亡したり全治4週間以上のケガ)のうち、軍法会議にかけられたケースはゼロ」と報じています。「戦後史の正体」によると、かりに米軍人がプライベートで交通死亡事故を起こしても、公務中の事故にすると推測しています。それでも本来なら、米軍内の軍法会議にかけられることになっていますが、実際はなにもしていないようです。
こんな米軍基地など、沖縄はもちろん、日本のどこにもあってはいけません。
それでも、「とはいえ、米軍基地の抑止力がなければ、中国、ロシア、北朝鮮が攻撃してくる。アメリカの理不尽に耐えるべきである」という反論はあるでしょう。
しかし、真実は「アメリカは日本を防衛しないし、する気もない」のです。次の記事に続きます。