「朝鮮戦争の正体」(孫崎亨著、祥伝社)を読むと、アメリカが朝鮮戦争の虚偽発表をしいていたことがよく分かります。
1950年6月26日、つまり戦争勃発翌日の朝日新聞の記事です。
「解説・軍事力は伯仲」の見出しで、「戦局の発展は予断を許さないが、三十八度線南側に配置されている韓国軍は八カ師団中の大半といわれ、士気高くて武器も優秀とされる」と載せています。
続いて27日の朝日新聞です。
「ワシントンの反響を聴く、局的解決を希望。対策を秘めつつ冷静」の見出しで「真珠湾攻撃の日のようなあわただしさはあったといっても今度の場合、それが米国の戦争を意味するものではない」と載せています。
完全な嘘です。6月25日の北朝鮮軍の大攻勢で、韓国軍は総崩れになって、「伯仲」では全然ありません。北朝鮮の強さに驚嘆し、大攻勢のわずか2日後にアメリカは軍派遣を決めているので「対策を秘めつつ冷静」「局地的解決を希望」は実際のアメリカの動きと正反対です。
ウクライナ戦争の時も感じましたが、戦時発表は多かれ少なかれ「大本営発表」になりがちです。記者クラブ制度で官僚の言葉をそのまま掲載する能力しかない日本の記者たちは、アメリカ報道官の発表をうのみにして、大誤報を発することになってしまいました。
公式発表が信じられないとなると、口コミが幅を利かせることになりますが、当然ながら、口コミもとんでもない嘘があります。
たとえば、「人びとのなかの冷戦世界」(益田肇著、岩波書店)には1950年の秋頃(アメリカの仁川上陸作戦が成功した時期)、中国の北京で、ある人力車夫と、その乗客で東北訛りの40才すぎの女医との間で次のような会話が交わされた記録が残っているそうです。
女医「こんなポスター(アメリカと戦い北朝鮮を支援する絵)は、共産党が人を騙そうとしているものよ。蒋介石はアメリカと手を組んで抗戦しているわ。ソ連は東北で女たちを漁って暴行したりするだけ。そのうえ発電所全て6つとも強奪してしまったのよ。東北では今、18才から50歳までの全ての男が徴兵されている。表面的には『志願兵』って呼ばれているけど、実際は無理強いで前線に送られていったのよ。ああ、こんな中国はどこにも辿り着けないわね。毛沢東はスターリンが中国を台無しにしたがっているんだっていうことをちゃんと知っているのよ」
人力車夫がこの女医にその話は本当かと聞き返すと、彼女は「私は東北人よ。今言った全てのことは自分で経験したことなんだから」と答えたそうです。
もちろん、この女医の話は嘘八百です。しかし、意図的に事実を隠蔽する共産主義政権下で、地元出身の医者に「自分で経験したことだ」と断定されたら、私でも信じてしまうかもしれません。
「なぜ情報に振り回されるのか」で多くの事実を収集すべき、と書きましたが、その事実がはっきりしない状況は、戦争時には頻出するようです。戦争ほどでないにしろ、福島原発事故の時も日本の公式発表に事実の隠蔽やごまかしが多かったことも私は覚えています。肝に銘じておくべきでしょう。