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朝鮮戦争がなかったら

朝鮮戦争は200万人以上の死者を出した大きな戦争でしたが、戦争前と戦争後で、国境は全く変わらず、両国の政治体制も変わらず、両国の最高権力者も変わりませんでした。一方で、近隣の国は現在まで続く多大な影響を与えています。

まず最も影響を受けたのは、台湾です。朝鮮戦争の勃発を世界で最も喜んだのは蒋介石でしょう。もし朝鮮戦争がなければ、1950年代前半のうちに、台湾は中華人民共和国の一部になっており、蒋介石アメリカに亡命して、余生を過ごしたはずです。

次に影響を与えたのは、やはり日本でしょう。

第二次大戦で完膚なきまで破れた日本人は、ほぼ全員、日本の再軍備を望んでいませんでした。「人びとのなかの冷戦世界」(益田肇著、岩波書店)に書いているように、自衛権を放棄した憲法第9条は、アメリカが押し付けた側面もありますが、日本人の多くがそれを望んでいた側面もあったはずです。保守派の吉田茂ですら、「これまで、ほとんどの戦争は自衛のためという名目で行われてきた。侵略のためといって始められた戦争はない」ので、「(日本国憲法は)直接には自衛権を否定しておりませぬが、第九条第二項において一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、また交戦権も放棄したのであります」と国会で述べています。

「軍事なんかに国費を使わず、生活や経済発展のために国費を使いたい」が当時のほとんどの日本人の本音だったはずです。アメリカを含む世界の全ての国も、日本の再軍備など望んでいませんでした。1950年の夏までは、「日本が再軍備するべきか」の問題の答えは「NO」で一致していたはずです。もっといえば、そんなバカな問題を提起する人すらいませんでした。

しかし、朝鮮戦争の衝撃は、その全会一致の結論を覆してしまいました。

もっとも、それを覆したアメリカですら、日本の再軍備で一致していたわけではありません。

日本の再軍備、換言すれば自衛隊の創設は、GHQ統治下の非常事態でなければ、不可能だったでしょう。日本国憲法9条で陸海空軍の戦力の保持を明確に禁止した以上、日本政府が自衛隊を創ることは憲法改正しない限り、無理でした。自衛隊が定着した現在ですら、自衛隊を認めるための憲法改正はできていません。自衛隊のいない日本が、自衛隊を創るための憲法改正ができるとは考えられません。日本国憲法に反する自衛隊を創れる唯一の例外が、日本国憲法を制定させたGHQだったと私は確信します。

ここでは深く考察しませんが、朝鮮戦争がなければ、日米安保条約日米地位協定、さらには在日米軍の質と量も大きく変わっていたことでしょう。少なくとも、それらが今と全く同じことはまずありませんでした。

これらは歴史を勉強すれば、自然と導かれる道理なのですが、こんな当たり前のことすら十分に認識していない日本人が少なくないので、あえて上に書いておきます。

朝鮮戦争が起きなければ、日本に特需が生まれず、日本の経済復興は遅れました。そうなると、経済主導の保守政権は人気が出ず、社会党共産党が選挙で躍進して、自民党の長期政権も生まれなかったかもしれません。その場合、日本は一体どうなったのか、と想像しますが、日本の政治は官僚主導なので、政権与党が変わったくらいだと、政治に大きな影響はなかったと私は想像します。共産党が計画経済を大規模に長期間実施した、などの極端な政策をしたら話は違いますが、そうでない限り、1960年代や1970年代に若者が多い日本が高度経済成長したことは確実でしょう。

ところで、陸海空軍を保持しない日本に自衛隊を創らせたほどの影響を与えた朝鮮戦争ですが、実は朝鮮戦争が起こらなかった可能性もありました。「中国の共産主義化を止めなかったのに、なぜ遥かに価値のない朝鮮の共産主義化をアメリカは3万人以上の死者を出してまで止めたのか」の問について誰も答えられないことを最近、私も知りました。

次の記事に続きます。