稀に医療者でも知らない人がいますが、生存率が医学的に0%の末期癌と診断され、「もう医療でできることはありません」と医師にはっきり言われたのに、なぜか癌がなくなってしまう人はいます。
末期癌と診断されて、場合によっては通院しなくてもいいとまで医師に言われて、本人も家族も自宅で最期を迎えるつもりだったのに、治ってしまったら、誰もが奇跡と思うでしょう。特に病院ではなんら治療をしなかったのに、藁にもすがる気持ちで「丸山ワクチン」などの代替医療に頼り、治ってしまったら、「丸山ワクチンで治るのは本当だった!」と確信してしまうのは無理もありません。
この思考の間違いを指摘できない人なら、たとえ文系だろうが、少なくとも大卒程度の理論的思考力は持っていないと断定していいでしょう。
「文系でも必要な科学的思考」でも書いたことですが、上記は対照実験の発想がないので、間違っています。もしランダム化比較試験で「丸山ワクチンを打った末期癌患者」と「丸山ワクチンを打たなかった末期癌患者」で、「丸山ワクチンを打った末期癌患者」の治癒率が「丸山ワクチンを打たなかった末期癌患者」の治癒率が優位に高ければ、丸山ワクチンの末期癌患者への有効性が証明されますが、現在に至るまで、それは証明されていません。
つまり、丸山ワクチンに限らず代替医療を含めて、特別なんの治療もしていないのに、末期癌患者が治ってしまう症例は世界中に昔から存在しています。
「それなら、なぜ医学の教科書に生存率が0%と載っているのか」という批判はあるでしょう。その理由を説明すると、単純に全人類の末期癌の患者の5年生存率を調べた研究が存在しないからです。もし存在したら、0%にはなっていません。
そもそも医学研究は倫理的に問題ないか申請したり、患者一人ひとりに承諾書やアンケートをとったりするので、労力と費用が膨大にかかります。誰だって、こんな労力と費用はできるだけ少なくしたいですが、少なすぎると研究としての価値が低くなります。だから、効果と費用が最適になるように計算して、研究対象になる患者数を決めます。
例えば、1億2千万人のテレビ視聴率は、以前、わずか300世帯の視聴で決まっていました(最近は違うようです)。日本人の2人に1人は癌患者になるとはいえ、肺癌、膵癌、大腸癌など、それぞれの臓器によって生存率は大きく異なりますし、それぞれの末期癌患者になると、かなり母数は小さくなります。そのうち、5年生存率0%の根拠となっている研究対象の各臓器別の末期癌患者数は、せいぜい数十人くらいでしょう。つまり、世界中で何万人もいる〇〇癌の末期患者の5年生存率は、たまたま調査対象になった数十人の結果で予想しているだけです。この調査対象者数が数百、数千だったら、1人くらいはなぜか治ってしまう末期癌患者がいたのかもしれません。もちろん、どの臓器の末期癌かによっても、5年生存率は大きく変わってきます。
「末期癌患者でも理由不明ながら治ってしまう人がいるとほとんどの医療者が知っているなら、なぜ社会でそう広報しないのか。医者も言わないのか」という批判はあると思います。それについては、私も同意見です。特に「末期癌患者から治った人たち」の研究報告を10年以上見たことも聞いたこともないのは、謎です。私にとって、10年以上解けていない社会の謎の一つです。
もし知っている人がいたら、下のコメント欄に書いてもらえると助かります。
やや専門的な「がんの謎」についての記事も書いたので、がんについて科学的に知りたい方は読んでもらえると嬉しいです。