今朝の朝日新聞では、現在の世界情勢は戦間期(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間)と似ていると主張していました。
2014年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、当時の安倍首相が日中関係を第一次世界大戦前の英独と似ていると発言して、世界中のメディアから批判されました。「日本で革新的でも西洋では保守的である」ので、日本ですら保守派の安倍が、軍事問題を議論する場でもないのに、自国が世界史上の大戦争を起こした国と似ていると発言すれば、批判が殺到するのは必然でしょう。
今朝の朝日新聞も、2014年の安倍首相も、大昔との類似を突然言い出した理由の一つは、単純にちょうど100年前が戦間期、もしくは第一次世界大戦発生の年だったからです。
両者の意見を比べてみると、安倍晋三の主張が妥当のように感じます。
現在の世界情勢が第一次世界大戦前と特に似ている点は、「経済の相互依存がかつてないほど進んで、戦争すれば相互依存できなくなり、明らかな損失なので、戦争などするはずがないと一部の知識人たちが考えている」ことです。
「21世紀に大国間の戦争は起きません」と断定する知識人の発言は、何度か読んだことがあります。その根拠は、「軍事技術が発展して、もし大国同士で戦争したら、あまりに損害が大きくなりすぎる。そんなバカな選択をする政治家と軍人などいない」といったものです。第一次世界大戦の前も、ほぼ同じ理由で世界大戦など起きないと断定している知識人が何名もいました。
一方で、第一次世界大戦前に、大国間の戦争はいずれ起きると確信している知識人もいました。世界大戦を予想する人たちが「大国間で戦争すればお互いに損するだけなのは分かっているのに、一体誰がなんのために戦争を始めるのか」という上記の理屈にどう反論していたかまで、私は知りません。もし知っている人がいれば、下のコメント欄に書いてもらえると助かります。
なんにせよ、事実として第一次世界大戦は勃発して、多くの知識人が予想した通り、ヨーロッパの列強は全て衰退しました。第一次世界大戦が4年もの長期戦になり、塹壕戦になり、戦車や戦闘機や毒ガスなどの新兵器が登場することまでは、誰も予想できませんでした。ドイツ帝国とオーストリア・ハンガリー帝国が滅ぶことまでは予想できた人はいたかもしれませんが、ロシア帝国で世界初の共産主義革命が成功したり、日本が対華二十一か条の要求を出したり、パレスチナで100年以上続くアラブとユダヤの対立が萌芽することまで予想できた人は、当事者も含めて世界中に一人もいませんでした。
第一次世界大戦前、バルカン半島はヨーロッパの火薬庫と呼ばれて、バルカンでの紛争が世界大戦の引き金になるのではないか、と多くの国が経過を見守っていました。ただし、こんな後進国だらけの小さい地域の紛争が世界大戦を引き起こす価値がないことも、当時の人たちだって十分知っていました。セルビアの青年がオーストリア皇太子を銃殺した事件で、なぜ1600万人も死者を出す世界大戦が始まったのでしょうか。100年以上たった今でも、ヨーロッパでは議論が続いているほど、理解に苦しむ歴史的事実です。「たった一発の銃声で戦争が始まるくらい、列強間の対立は深まっていたから」が模範解答かもしれませんが、「当時のヨーロッパ人たちが視野の狭いバカだったから」も正答になるべきでしょう。
現在、台湾での紛争が米中の核戦争を引き起こすことを世界中が心配しています。「米中の当事国の誰もそんなことを望んでいない」のは事実ですが、第一次世界大戦前も、ヨーロッパの誰も列強間の大戦を望んでいませんでした。台湾海峡ほどではありませんが、他の中国近海での紛争が第三次世界大戦に繋がる心配も世界中でされています。そのうちの一つは、尖閣諸島をめぐる日中の争いです。中国と仲の悪い国は世界中にありますが、お互いの憎しみ度合いで日本ほど上にくる国はないでしょう。それこそ、第一次世界大戦前の英独よりは上、仏独くらいになるはずです。
第一次世界大戦と第二次世界大戦で、お互いに最も憎しみ合っており、最も責任ある両国関係はドイツとフランスです。同様に、第二次世界大戦(のアジア方面)と第三次世界大戦で、お互いに最も憎しみ合っており、最も責任ある両国関係は日本と中国である、とならないことを願うばかりです。