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戦争は勝っても損をする

「戦争の大問題」(丹羽宇一郎著、東洋経済新報社)は素晴らしい本でした。以前、同じ著者の本を読んで、大したことないと思った記憶がありますが、その判断が間違っていたと思うほど質の高い本でした。

第二次世界大戦の経験から「負ける戦争は絶対してはいけない」と日本人の誰もが知っているでしょうが、「勝つ戦争すらしてはいけない」と公言している丹羽宇一郎のよう人は珍しいのではないでしょうか。上記の本からの抜粋です。

「戦争は国民を犠牲にする。戦争で得する人はいない。結局、みんなが損をする。特に弱い立場の人ほど犠牲になる。日本は二度と戦争をしてはいけない」

「『あの戦争は正しかった』という私とは異なる意見があってもよいと考えている。問題は正しかったか、間違ったかではなく、正しかろうと、間違っていようと戦争をしてはいけない、戦争は人々を不幸にするとしっかり認めることにあるからだ」

「相手にいかに非があったとしても、武力をもって正すという方法は我々が決して許してはいけない」

その通りです。著者の言葉を借りれば、「キレイごとを正々堂々と」言っています。

確かに、日本は第一次世界大戦で「勝者」となり、経済も発展しました。それは、日本がほとんど戦争せず、戦争当時国に物資を売り込んだから、経済が発展したのです。いわば日本が戦争を利用して死の商人として儲けたからで、朝鮮戦争特需同様、情けない、かつ恥ずかしい歴史的事実です。

日本が当事国となって戦争した日清戦争日露戦争、シベリア出兵、日中戦争ノモンハン事変、太平洋戦争は、全て日本にとって負担になっています。

他の戦争はともかく、多額の賠償金獲得と領土割譲に成功した日清戦争まで、日本の負担になったとの解釈には反論もあると思います。

しかし、著者は石橋湛山も引用した次の統計を参考に、そう主張しています。1921年の統計によると、日本と朝鮮、台湾、関東州(満州の一部)との貿易額はそれぞれ約3億円で、合計9億円です。一方、同じ統計でアメリカとの貿易額は14億円です。しかも、当時はイギリス領だったインドの貿易額は6億円で、イギリスは3億円です。だから、(韓国や台湾の人には失礼極まりないですが)朝鮮半島や台湾のために、米英を敵に回すのは経済的には明らかな愚策でした。本からの抜粋です。

「戦争をして領土をとっても、産業と技術がなければなんの利益も生まない。

確かに、他国の資源の採掘権や販売権を持つことで利益は出るが、それは戦争しなくても然るべき代価を払えば手に入る権利である。

軍事的に資源を奪えば、その国民に恨まれ、常に施設の警備と防衛に兵員を割かなければならず、作業者も現地人の応募は期待できない。あまりにも経費がかかり、かえって相手国から買った方が安上がりになる公算が高い。

戦争して相手国に傀儡政権をつくったとしても、民意を得ない政権では結局上手くいかないことはイラクを見ても明らかだ。戦前日本の満州国経営も失敗例である。

戦争には与える力も作る力もない。あるのは破壊だけである。戦争で国益を確保すると主張する人は、具体的にどうすれば確保できると考えているのだろうか」

日清戦争で日本が負けていれば、日露戦争もなく、上記の他の全ての戦争もなかったでしょう。「日清戦争で日本が負けていれば、ロシアが日本に攻めてくる」と主張する日本人は当時もいましたが、その可能性はほぼゼロだと断定できます。もし本当にロシアが日本に攻めてくるのなら、もっと日本とロシアの国力の差があった幕末に攻めていたからです。また、万一、ロシアが日本に攻めてきたとしても、「黒船と本気で戦っていたら日本は攘夷を達成できたが、それは最悪の選択であった」にも書いたように、日本の一部をロシアが占領に成功したとしても(その成功確率すら低いと私は考えますが)、日本の抵抗により、いずれロシアは撤退せざるを得なかったでしょう。

日本は日清戦争に負けていた方が、経済的には発展したに違いありません。ただし、そうなると日本史だけでなく世界史も大きく変わってしまい、第二次世界大戦に日本が加わらなかった可能性も高くなります。だとしたら、今も日本には明治憲法が残り、軍隊もあり、徴兵制もあり、基本的人権の尊重もない国になっていたかもしれません。