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こんな社説が大新聞に載っているから日本のIT化は進まない

5月25日の朝日新聞社説からの引用です。

「マイナカード 拙速な活用拡大反省を」という見出しで、「拡大一辺倒の姿勢を改め、安心して使える環境を整えることに注力しなければならない」という結論で終わっています。マイナンバーカードにより複数の経路で情報漏洩が4万件ほどあったことを繰り返し批判しています。

情報漏洩といっても、どこの誰かも分からない「医療費や薬剤の情報」を見た程度です。実害なんて、まずありません。駄々洩れになっているFacebookで分かる個人情報と比べたら、大したものではないと私は考えます。また、何万件中の4万件なのかが書かれておらず、国際比較もされていないので、多いのか少ないのかすら、判断できません。

ネットで新しいシステムを導入すると、こういったトラブルはよくあることだと、経験上知っている人は、私を含めて、少なくないはずです。まして、IT後進国の日本だと、トラブルが起こる可能性は高いでしょう。だから、「こんなトラブルが多いのも、日本がこれまでIT化を進めてこなかったツケである」「IT化に遅れすぎているからこそ起こったトラブルでもあるので、IT化の速度を上げこそすれ、下げることは許されない」との結論になるべきだと私は考えます。

しかし、「個人情報の厳格な管理という大前提を軽視していなかったか」「問題と不安の解消に努めるのが先決だ」と、IT化よりも個人情報や国民の不安の解消を重視しているようです。朝日新聞はIT化の進展、マイナンバーカードの便利さの向上を止めたくて仕方ないようです。

確かに、「国民全体を対象にするような大規模なシステムの立ち上げや運用には、情報処理や人手の作業など、あちこちに落とし穴が潜む。ミスは起こることを前提に、その際にも情報を守れる仕組みを構築し、利用者からの訴えにも敏速に応えられる態勢をとること」が重要なことは、私も否定しません。しかし、朝日新聞は上記のことが「不可欠だ」という結論になっているので、ITやネット分野の基本知識が欠落しているのではないか、と私は思えてなりません。

繰り返しますが、ネットの世界では、予期せぬトラブルはそれなりの確率で起きてしまいます。莫大な予算を使って、十分に対策をとっていたはずのネット事業でも、トラブルは起きます。そんなトラブルに巻き込まれて、「こんな初歩的なミスをするのか」と呆れてしまった経験は、ある程度ネットを利用している人なら、誰にでもあるのではないでしょうか。

ネットの世界で「〇〇が不可欠だ」と断定してしまうと、ほとんどなにもできません。だから、トラブルが起こる覚悟で、勇気を持って進めるしかありません。

一方で、ネットの世界の長所は、トラブルが起こっても、それを修正できることです。最初は「こんなミス、ありえない」と思っていたトラブルが生じた事業でも、しばらくすると「いつの間にか、ミスが解消されて、すごく便利になっている」といった事件はよくあります。ネットの世界では「これはダメだ」と先入観を持って避けてしまうと、後で恐ろしく損することがあります。私の人生の中でも重要な教訓の一つです。

世界中の人たちの生活様式全体に多大な影響を及ぼしたwindowsにしろ、インターネットにしろ、googleにしろ、スマホにしろ、最初はひどいものでした。しかし、そのまま避けて通っていたら、現代人の生活はどうなっていたでしょうか。

Windows95はパソコンの世界に革命を起こした、と1995年の発売時から言われていましたが、「この程度ならMacintoshとそう変わらない。むしろ、Macの方が優れている点もある」と主張する人は当時、少なくありませんでした。実際、その主張は正しかったとほぼ断定できるはずです。特に昔からパソコンを使っている人はそう主張しがちでした。しかし、それから10年間に、ほとんどの人はMacからwindowsに乗り換えました。2005年でも「Macはボタン一つで使いやすい。ウイルスに強い」などと屁理屈をつけてMacを使い続け、研究室やクリニックなどでも部下に使用を強要している人はいましたが、当然、避けられていました。

今の若い人は信じられないでしょうが、インターネットも初期はひどいもので、「パソコン通信があれば、自分は要らない」と真顔で言っている人がいました。やはり、昔からパソコンを使って、パソコンに詳しい人でした。もちろん、彼も今はインターネットを毎日利用しているはずです。

マイナーバーカードの利便性向上こそ「不可欠」です。多少の情報漏洩はつきものだと思って、諦めましょう。もちろん、その個人情報対策は必要ですが、二の次です。最優先事項は、マイナンバーカードの利便性向上であり、その次の優先事項は「できるだけ早く」になるはずです。

国民生活を便利にするはずだった住民基本台帳は、全くの税金のムダになりました。その最大の理由は、個人情報に神経質になりすぎたからです。住民基本台帳の失敗に全くと言っていいほど触れず、マイナンバーカードの個人情報漏洩を大ニュースにしたがる朝日新聞は、マイナンバーカードも住民基本台帳と同様にただの身分証にしたいのかもしれません。朝日新聞がそんなにネットの個人情報漏洩を忌み嫌うなら、社員全員にスマホとインターネットの使用を禁止してください。昔は、そんなものなかったのですから、なんとかなるはずです。