未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

ベーシックインカムよりも国民所得税を導入すべき

「つくられた格差」(エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマン著、光文社)は、累進課税こそ社会正義との考えで貫かれています。私もそれに異論は一切ありません。極端に貧しい者と極端に富める者もいない社会は、有史以来、人類普遍の理想だと私は信じています。

どういうわけか、ジニ係数が最も小さい、つまり、その理想に最も近い北欧諸国では、消費税が主となっています。しかし、「なぜ増税と言ったら消費税の話になっているのか」にも書いた通り、消費税は逆進性が強くなります。普通に考えれば、極端に貧しい者も極端に富める者も少なくするためには、所得の累進課税が妥当になるはずです。上記の本でも、それを何度も繰り返し主張しています。

その理想の税制として国民所得税を提案しています。国民所得税は、全ての所得に課税します。「『法人税はゼロがいい』理論は間違っている」で考察した労働所得や資本所得(インカムゲインキャピタルゲインも含む)の全てであり、公的法人や非営利組織が生み出す所得も含みます。当然、富裕層に集中する貯蓄にも適用されます。また、国民所得税は管理を簡単にするため、所得の種類によらず均一に累進税率を採用し、いかなる控除も提供しません。

ところで、国民所得(≒GDP)は労働所得と企業利益と利子所得を合わせたものです。だから、国民所得に課税すれば、理論上GDPの100%に近い課税基盤を持つことになります。

たとえば、労働所得に対する国民所得税は、雇用主が管理・納付します(現在の日本の源泉徴収のシステムです)。営利企業、非営利企業、政府いずれであれ、雇用主はすべて、あらゆる被雇用者の総労働コストに応じて税金を支払います。

さらに、家族経営のレストランから巨大企業まで、全ての企業はその利益に対して国民所得税を支払います。課税基盤となるのは利益の総額であり、適用除外は一切ありません。資本資産の損耗を反映するため減価償却は行うものの、いかなる税の支払いも控除されません。

以上の労働所得と企業利益はアメリカで、現在すでに法人税や事業税の申告書で報告されているそうです。私は会計に詳しくありませんが、日本もそうだと推測します。

国民所得税は利子所得にも、他の所得と均一の累進税率を課します。企業が融資や債券に対して支払う利子は企業利益から差し引かれ、その利子を受け取る貸し手に課税されます。貸し手が企業の場合、受け取る利子はすでに企業利益に含まれています。そのため課税基盤に追加されるのは、個人や非営利組織が受け取る利子のみであり、管理が煩雑になりません。個人や非営利組織が受け取る外国の配当も、外国から受け取る他の所得同様、国民所得税の課税対象になります。

このようにすれば、あらゆる所得源に一度だけ課税することになるため、国内の配当や年金所得、社会保障給付や失業給付などの移転所得に課税する必要はなくなります(配当は、すでに課税されている企業利益に含まれます。年金所得になる積立金は、すでに課税されている労働所得に含まれます)。国民所得税は、所得階層の最下層に多い、移転所得で生活している人々に負担をかけません。このため国民所得税は消費税よりも遥かに累進性が強くなります。

なお、理論上はGDPの100%の課税基盤を持ちますが、現実には「従業員が帳簿外の賃金を受け取る」「自営業者が現金で支払いを受ける」といった非公式経済は違法であるものの、把握できません。本によれば、こうした脱税活動により、GDPの7%ほど課税基盤は縮小するそうです。

そうだとしても、この国民所得税は、制度が簡単で理解しやすく、多くの人たちを納得させやすい、理想的な税だと私は考えます。国民所得税の説明には、300ページ近くある上記の本のうち、わずか2ページしか費やしていません。それくらい単純な税です。

これと好対照なのはベーシックインカムでしょう。制度が簡単で理解しやすい点では同じですが、ベーシックインカムが貧富の差を極限まで拡大する税制なのに対して、国民所得税は貧富の差を極限まで縮小する税制です。換言すれば、ベーシックインカムは富裕者にとって都合よく、国民所得税は貧乏人を救う税制です。

アメリカで会計士や経済学者や政治家やその他の富裕層がトリクルダウン理論法人税ゼロ理想論というトンデモ説を普及させて富める者がさらに富める社会にしているように、ヨーロッパではベーシックインカムというトンデモ説を普及させて富める者がさらに富める社会にしているのかもしれません。なお、ベーシックインカムがいかにメチャクチャな説かは「ベーシックインカムの賛否は現在のバカ発見器である」で既に述べています。

上記の本や今回の一連の私の記事が広く読まれ、日本でもできるだけ早く国民所得税が導入されることを願っています。