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トリクルダウン理論が間違っている証拠

このブログを読むような方なら、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がこぼれ落ち、経済全体が良くなる」というトリクルダウン理論は知っているでしょう。これが間違っていることは、次のグラフで一目瞭然です。

「つくられた格差」(エマニュエル・サエズ、ガブリエル・ズックマン著、光文社)の中で、上は私が最も衝撃を受けたグラフです。アメリカの下層50%は、1970年からの約50年間、平均所得がほとんど変わっていないのです。この間にアメリカ全体での一人当たりGDPは10倍以上になっているにもかかわらず!

では、アメリカの10倍まで増えたGDPは一体誰の懐に入っていたのでしょうか。理論的にも現実にも、富裕層になります。下のように、戦後からレーガン政権までの1980年まで、アメリカ人の所得は上位から下位まで平均の2%の成長率を維持していました。上位1%だけは成長率1%だったようです。

しかし、1980年以降、所得の成長率は下位から上位にかけて急カーブを描くようになり、平均の1.4%を下回る者が9割となります。さらには、上位になればなるほど所得成長率が異常に高くなる、という地獄社会になってしまいます。

本には、こんなデータも紹介されています。2018年、アメリカの成人一人あたりのGDP(≒国民所得)は7万5千ドルです(成人一人あたりなので、国民一人あたりより高くなります)。一方、所得の下層50%の成人一人あたりのGDPは1万8500ドルと、平均の4分の1です。この1万8500ドルは、あらゆる所得の合計であり、税引前であり、雇用主が民間保険会社に払う金銭(つまり本人の手に入らない金銭)も含まれています。「読者がいま目にした数字は、決して間違いではない。所得のもっとも幅広い概念であるGDPを、そこから何も除外することなく、成人の人口で平均している」とまで書いています。アメリカ人である著者にとっても衝撃を受けるほど、ひどい数字なのでしょう。

トリクルダウン理論がここ50年くらいのアメリカでは完全に通用していないことは十分に示せたと思います。次の記事に、上記の本で、理想とされる税制について示します。