未来社会の道しるべ

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褒めるだけで上手くいくはずがなく、本当に反省させることは極めて難しい

こんなことは誰もが知っていると私は考えていますが、現実には知らない人も多いようです。

「ケーキの切れない非行少年たち」(宮口幸治著、新潮新書)からの抜粋です。

著者も参加する学校コンサルテーションでは、小中学校で困っている生徒の事例を先生が発表します。参加者でグループを作り、そのグループ内でどう支援すべきか討論し、グループごとに支援策を発表します。

そこで出てくる支援策の定番は「子どものいい所を見つけて褒める」です。問題行動ばかり起こしている子は、どうしても悪い面ばかりに目が向きがちです。しかし、全ての子にはいい面があります。小さなことでも褒めて、役割を与えて、できたら褒める、といった支援策です。褒めて、子どもに前向きにさせて、成長を促していければ、まさに理想的でしょう。

しかし、この支援策を提案されても、ほぼ例外なく、事例発表した当の先生は浮かない顔をしています。「言われなくても分かっているよ」と言いたげです。そんなことは何度も試したし、他の方法も全て試してうまくいかないから相談しているのが現実でしょう。

話は脱線します。「ground rules」の記事でも似たようなことを書きましたが、グループワークで正解が得られることはあまりないと私は考えています。実際、私が正解を言っていたのに、他の人たちが納得できなくて、間違った解決策がグループ内の結論になったことがあります。グループワークでワークショップの参加者の満足度は高まるのかもしれませんが、本気で解決することが目的なら、グループワークは適切ではない場合が多いでしょう。

上記の本の著者は少年院でも働いたことがあります。少年院で教官の先生から注意や指導を受けると、「僕は褒められて伸びるタイプなのに」と泣きながら言い訳する少年がいたそうです。きっと親からそう言われてきたのでしょうが、その結果が少年院です。

上記のグループワークで「褒める」と同じくよく出てくるのが「話を聞いてあげる」です。確かに「話を聞いてあげる」ことも大切ではありますが、「心理士の仕事は社会福祉士がするべきである」に書いたように、問題児や不良少年がそれだけで更生するなら、先生も困っていないでしょう。

ところで、上記の本の著者は立命館大学教授らしく、その前任者の教授は「反省させると犯罪者になります」(岡本茂樹著、新潮新書)を記したそうです。この本は私も読みましたが、ひどい内容でした。著者の岡本も「ケーキの切れない非行少年たち」の著者の宮口同様、少年院で働いたことがあるようで、そこで少年たちに反省ばかりさせても、少年たちが全く反省できていないことから、「反省させると犯罪者になる」とまで考えてしまったようです。しかし、普通に考えれば、それは行き過ぎです。触法少年たちを反省させるべきなのは間違いないはずです。

確かに、反省一辺倒で、形だけでも反省させようとする現在の日本の少年院の指導方針に問題はあります。結果として、反省したはずの少年たちが出所後に再犯する確率が高いのも事実でしょう。そこから導かれるのは「触法少年たちを本当に反省させることは極めて難しい」になるべきで、だとしたら「本当に反省させるにはどうするべきか」「どういった少年には出所後もどれくらいの期間、保護観察を続けるべきか」などが検討課題になるはずで、「反省させると犯罪者になる」は極論です。

タイトルの繰り返しになりますが、本当に反省して、習慣や行動を根本的に改めるのは、どんな人だって容易ではありません。触法少年たちなら、なおさらでしょう。少なくとも、岡本のような浅い人間観の奴には不可能に近かったようです。