海外でも農業保護に税金が使われていることは以前から私は知っていました。「2025年日本の農業ビジネス」(21世紀政策研究所著、講談社現代新書)の著者の一人は、それを知らない日本人が大半だと考えているようです。
PSE(Producer Support Estimate:生産者支持推定量)という指標があります。政府の財政負担によって農家の所得を維持する「納税者負担」の部分(つまり、農家への補助金)と、内外価格差(国内価格と国際価格との差)に生産量をかけた「消費者負担」の部分(つまり、消費者が安い国際価格ではなく、高い国内価格を自国農家に払うことで農家に所得移転している総額)で構成されています。
このPSEの各国の内訳をみると、農協がコメ輸入について理不尽に大反対をしたウルグアイラウンド(それについての記事は既にこちらに書いています)の1986~1988年当時、消費者負担がアメリカ37%、EU86%、日本90%でした。しかし、2013年にはPSEの消費者負担がアメリカ6%、EU15%と6分の1くらいに激減したのに、日本はいまだ78%(年間約3.6兆円)もあります。25年ほどの間に、欧米各国は農業保護政策を「価格支持」から「農家への補助金」へ変えているのです。なぜでしょうか。
それは、国内消費者に安価な農作物を供給すると同時に、農業の国際競争力を確保したいからです。
また、国内生産量が少ない場合、PSEの総額負担は小さくなります。たとえば、日本の小麦の国内生産量は14%なので、下記の図から分かるように、農家への補助金の方が関税保護策よりもPSEの総額は低くなります。
もちろん、この政策だと農家はどれだけ生産費用が高くなっても生産量を増やせば儲けが増えるので、政府は生産費用の上限の規制は敷きます。この生産単価上限(国内価格)を漸減させて、国内生産量が50%に到達するまでに国内価格をうまく国際価格に一致させれば、理論上、PSEはゼロにできます。減反をする必要もありません。ちなみに、現在の日本の減反は全水田面積の4割で、世界最大の減反率に違いないと上記の本に書かれています。
本では、コメ産業の規制を強く批判しています。減退補助金としてコメ農家に4000億円もの税金を出して、国内生産量を減らしている上に、コメの国際価格と国内価格の差で消費者が払っている総額は6千億円にも達しているからです。なお、日本のコメの市場は2兆円なので、その半額もの費用が費やされている計算です。
公明党の提言によって、食品だけは消費税が8%になりましたが、そんな面倒な政策を実行するくらいなら、コメの関税を撤廃して、農家への補助金政策に変えた方がよほど経済的弱者のためになる、と著者は指摘しています。確かに、コメの関税をなくせば、食品も消費税10%にしても、消費者がコメをより安い価格で買えることは間違いありません。
なお、世界各国のPSEと農業生産額の比率は以下の通りで、案の定、日本は上位集団の一つになっています。この上位集団は「日本の農業は日本のために世界で勝負すべきである」の記事で述べた「低生産性保護型農業」(生産性の低い農家を保護するため消費者に負担を強いている)であることは間違いないでしょう。