未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

日本の農家が国内の消費者さえ無視して生産している証拠

日本の農業生産者の大半は、相変わらず農協を通じて卸売市場への出荷を行っています。生産の時に考慮しているのは、卸売市場からスーパーなどの小売店を通じた家庭用の消費です。しかし、下のグラフにある通り、2010年の段階で、消費者の食料品購入の割合は、生鮮食品が27.8%で、加工食品が50.5%、外食が21.7%です。

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上のグラフの通り、今後、女性の社会進出や高齢化が進行する日本では、生鮮食品の消費割合は減少する一方だと推定されています。何十年も前に、生鮮品重視の生産をやめて、食品加工や外食産業向けの生産を開始すべきだったのに、農業界は未だにそれに対応できていません。

極端な例として、加工用トマトの生産があります。自由化以前、カゴメ1社で国産トマト23万トンを仕入れていました。しかし、1972年に自由化されてからは、見事に外国産に置き換わっていき、現在、カゴメ仕入れる生トマト35万トンのうち、国産はジュース用の2万トンだけで、他の33万トンは海外で第一次加工をして日本に輸入しています。とはいえ、トマトについては「トマト缶の黒い真実」(ジャン・バティスト・マレ著、太田出版)という本で、海外産の劣悪な生産環境や不正が明らかにされているので、海外産がどれだけ信用に値するかは疑問もあります。そういった腐敗を防止するための規制は必要でしょう。

日本だけでなく、海外でも食品加工業は農業と同等かそれ以上に大きな産業になっています。しかし、日本は農業だけでなく、食品加工業の生産品もあまり輸出できていません。なぜなら、原料となるコメ、小麦、砂糖、でんぷん、乳製品などは全て高い関税が課せられているので、高い国内価格の原料から生産品を作るしかないためです。これでは海外の安い製品に太刀打ちできません。いえ、日本の食品加工業は、国内市場ですら苦戦しています。外国産の原料製品は高い関税を課しているのに、安い原料から作られる外国産の加工食品には低い関税しか課していないからです。このため、食品加工企業は、上記のカゴメのように、海外に工場を作って、日本に輸入しています。日本で生み出せる加工産業の富を、農家保護規制のせいで、海外に逃しているのです。結果、2013年の食品産業の国内生産額は、1998年との比較で約2割も減少しています。

国内農業が逃している付加価値は、加工食品だけでなく、外食にもあります。2009年の農林水産省の調査によれば、外食産業の食材費のうち、穀物は10%、野菜は9%に過ぎません。では、なにが最も多い品目かというと、やはり加工食品です。しかし、その内訳は国産52%、輸入48%と、輸入が半分近くを占めています。国産の52%であっても、原料は外国産の農作物を使用している可能性が高いので、外食産業向けの農産物市場のほとんどを既に海外に奪われているはずだ、と上記の本では推測しています。

「儲かる農業」(嶋崎秀樹著、竹書房)にもある通り、昨今、成功した農家のほとんどは、市場のニーズに応えて、中食(おにぎり、弁当、総菜などの既成食品)や外食産業向けに量と品質を一定にした生産をしています。しかし、ほとんどの農家は、販売に関心をあまり持たず、生鮮食品向けの生産を続けています。それは消費者にとってだけでなく、生産者、つまり農家自身にとっても利益にならないはずなのに、なぜそんな状況が続いているのでしょうか。それについては「日本の農業は問題も答えも分かっているのに、その答えに進めない状態が30年以上続いています」の記事に書きます。