未来社会の道しるべ

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水産庁は税金を使って漁業崩壊を促進する公的機関である

1997年から、ようやく日本でもTAC(総漁獲枠)制度が導入されました。日本の魚種別漁獲量の下のグラフで、薄いグレーの魚種でTAC制度が導入されています。

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日本で大量に獲れる魚種のほとんどはTAC制度が導入されているのです。それにもかかわらず、どうして乱獲で漁獲量が減っているのでしょうか。理由は次の二つにあります。

1、科学を無視した漁獲枠の設定

2、漁獲枠を守っていない

どちらも本当に情けない理由なのですが、一つずつ検討していきます。

1、科学を無視した漁獲枠の設定

一般にTACは、科学者が資源の持続性の観点から乱獲の閾値(OFL)を求め、生物学的許容漁獲量(ABC)を提言し、総漁獲枠(TAC)を決めます。必然的に、OFL≧ABC≧TACとなるわけですが、日本はOFLを求めていない上、ABC<TACという理論的に矛盾する設定までしています。

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「漁業という日本の問題」(勝川俊雄著、NTT出版)には、水産庁が2001年から2002年にマイワシでTAC>資源量(>OFL)という、あり得ない設定までした前科が載っています。

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資源量、つまり海にいると推定されている全てのマイワシの総量以上に、総漁獲枠を設定しているのです。もしあなたがお金のつかみ取り競争に参加して、「この箱の中には全部で26万円入っている。次の人も遊んでもらうために、最大でも取れる量は34万円までにする」と言われたら、その矛盾が気にならないでしょうか。

漁獲枠は漁業有識者が集まる水産政策審議会で決まります。その委員の多くは、漁業団体に天下った水産庁のOB連中だそうです。会議自体は非公開ですが、後日、議事録は公開されます。上記の本の著者は、この意味不明な漁獲枠の設定を決めた議事録を調べてみたら、水産業の中尾管理課長は2002年のマイワシ漁獲量は「過去最低のTAC」で、「対前年比1割減」と、まるで「これでも少ない」かのような発言をしていたようです。資源量以上に漁獲枠を設定している根本的な間違いは、委員の誰も指摘しませんでした。こんな人たちが日本の「漁業有識者」なのでしょうか。

2、漁獲枠を守っていない

水産庁は漁獲枠をまともに設定していないだけでなく、せっかく税金を使って設定した漁獲枠を守らせる気もありません。日本の漁獲統計は、漁業組合の報告を集計するだけです。実際の水揚げと報告内容が一致しているかを誰も確認していません。その気になれば、いくらでも不正は可能です。

日本の漁獲統計の不正確さが顕在化したのは、2005年のみなみまぐろ保存委員会の年次会合です。オーストラリアは日本の市場調査で、TACを大幅に越えるミナミマグロが流通している可能性を指摘しました。

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明らかに過剰なミナミマグロの流通量は、どこから来たのでしょうか。日本政府が調査しなかったので確実な証拠はありませんが、輸入魚は必ず税関で数量を確認するので、日本漁船による不正漁獲によるものでしょう。

さらに、2007年8月にはサバ類の漁獲高が漁獲枠を超過しましたが、水産庁は漁業者に自主的な漁獲枠停止を要請したのみでした。なんと取り締まりをしなかったのです。その結果、最終的な2007年のサバ漁獲量は漁獲枠を6万トンも超過しました。漁獲のほとんどがサバなのに「アジなど」「混じり」という名前で報告する例もあったようで、上記の著者は「実際の漁獲高は6万トンでは済まないだろう」と書いています。

またもやですが、2008年にはマイワシの漁獲枠が2倍近くも破られてしまいました。しかし、なんらペナルティはありませんでした。漁獲枠を無視して、獲った者勝ちです。漁獲枠を遵守した正直者だけがバカを見ます。

漁獲枠の不正を未然に防ぐには、水揚げ、競り、小売りなど、複数の段階で魚の流れを記録して、それらをつきあわせる必要があります。また、違反には厳罰で対処しなければいけません。

ここまでで日本のTAC制度が無意味であることを十分示せたと思いますが、まだ欠点があります。それはTAC制度がオリンピック方式を採用していることです。オリンピック方式は世界の多くの国で失敗しているのですが、その理由を次の記事で説明します。