未来社会の道しるべ

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日本政治がオープンになるために

山口敬之という元TBSの総理番(総理大臣担当記者)いました。山口は安倍晋三のお気に入りの記者で、第一次と第二次の安倍政権時、他の会社の記者だけでなく安倍の公設秘書たちも人払いさせた後に、独自の情報を何度も安倍から伝えられています。しかも、その独自情報をすぐには報道せずに、安倍の機嫌をうかがって、報道するかどうか決めていた、という信じられない事実を「総理」(山口敬之著、幻冬舎)で堂々と白状しています。

ありえない話は「総理」の中にいくらでも出てきて、第一次安倍内閣の時、麻生太郎の次期内閣改造人事案のメモを安倍晋三に届ける、という役目を山口は引き受けています。言うまでもなく、内閣は日本政府の中枢です。次期自民党幹事長が現総理に内閣人事案を伝えるときに、公務員でもなんでもない人(山口)に伝言を頼んでいるのです。法律上、山口がその秘密を守る義務は全くありません。むしろ、報道人であるなら、そんな国家の最重要人事案は、すぐにでも公にしたがるでしょう。

しかし、山口が絶対にそれを漏らすことはない、と麻生は信じています。事実、山口は麻生に忠実に、その内閣人事案を一切報道することなく、上司にも同僚にも伝えることなく、安倍だけに伝えています。その情報を公にしたのは、麻生にも安倍にも迷惑をかけないと山口が判断した頃合いになります。

TBSから給料をもらっている人が、なぜ自民党政権のために仕事をしているのでしょうか。山口はTBSから「そんなスクープ情報は今すぐ報道すべきだ」と言われたら、どうするつもりだったのでしょうか。山口なら「そんな仁義に反することはできない」と拒否したに違いありません。

当然、山口はTBSを2016年に事実上クビになりました(直接の原因は不起訴処分になった準強姦罪の容疑)。しかし、その後に記した「総理」で、自分の仕事方法についての反省の言葉は全く述べていません。その正反対で、「内部に入らなければ重要な政局の情報は手に入らない」と自身の正当性を本気で訴えています。救いようがありません。

山口は公私混同も甚だしいです。こんな奴がつい最近まで首相の近くで働いており、記者クラブという特権階級で部下や同僚に威張っていた事実自体が情けないです(「総理」には安倍や麻生には敬語を使うのに、同僚や部下にはイライラして怒鳴ったりする山口の様子が臆面もなく書かれています)。

ここまで問題がある一方で、「週刊文春編集長の仕事術」(新谷学著、ダイヤモンド社)では山口の仕事術が絶賛されています。週刊文春。さもありなん、です。

政治の世界には表に出てこない情報が必ずある、と山口は固く信じています。だから、政治社会に深く入り込み、生々しい現場を目撃しなければならない、と「総理」に書いています。そのためには政治家や官僚に信頼されるため、適切な時までは秘密を厳守しなければならない、と信じているようです。

この根本の発想が、社会道徳と正反対です。それに山口は全く気づいていません。確かにすぐには公にできない政治情報はありますが、そんな情報は報道人も含めて、全て秘密にするべきです。一部の怪しい情報通が公開すべき時を情報源に忖度しながら決めるのではなく、公人ができるだけ早い時期に公開理由も含めて、政治情報を広めるべきです。情報公開を判断する公人は政治家たちとは直に接しない第三者であるべきです。また、情報内容が不適切に狭められていたり、情報の公開時期が不適切に遅すぎたら、当然、その公人は責任を問われます(叱責や懲罰を受けます)。

そもそも、日本では政治情報があまりに秘密にされすぎています。「日本の歴史はいつになったら神話ではなく事実に基づくのか」にも書いたように、重要な政治の決定過程は全て公文書に記録して、適切な時期になればすぐに公開すべきです。これに同意できない裏のある政治家なら、最初から表の世界の政治に携わる資格はありません。

山口のような裏社会の手法を尊重する奴が、表の政治社会で胸を張って活躍する恥ずかしい社会から、日本が1日でも早く脱却することを願っています。