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日進月歩の中国と10年1日の日本

ここ最近の中国について情報収集していると、中国が日進月歩で変化しているのに、日本が10年1日のように停滞していることに意気消沈してしまいます。なにより残念なのは、ほぼ全ての日本人がそのことに危機感を全く持っておらず、未だに先進国気分で中国を見下していることです。

中国が日本をあっという間に抜き去った一番いい例は、キャッシュレス社会の到来でしょう。スマホが普及したと思ったら、ほぼ同時にスマホ決済まで普及して、中国は人類史上最速でキャッシュレス社会に到達しました。隣の大国がそんな偉業を達成したのに、日本人たちはキャッシュレスがどれだけ社会全体でムダな労力とコストを削減するか、考えてもいないように思います。

キャッシュレス社会とは、単にかさばる現金を持ち歩かなくていい、という労力の削減だけではありません。現金の印刷や処分の工作機械も不要になり、運搬時や保管時に盗まれないための警備労力も不要になり、店舗でのレジ絞めや集計などの業務も不要になり、現金を預けて引き出すATMも不要になります。馬車で殻付きクルミを売る屋台でもスマホで決済でき、個人間のお金の貸し借り、たとえばお年玉でさえスマホでやりとりする中国では、現金維持コストが現在、ほぼ不要になりました。昼の休憩時間にも、北京市内の銀行のATMは全く使用されていないそうです(「キャッシュレス国家」西村友作著、文春新書)。野村総合研究所によると、日本では現金決済のインフラを維持するために、年間1兆円を越える直接コストがかかっています。

私にとって、最も衝撃的だったのは中国での信用スコアの普及です。シェア自転車をきちんと返却したか、公共料金を毎月支払っているか、交通違反をした前歴がないか、ネットショッピングの支払いが滞っていないか、タクシー配車アプリを利用した時に無断キャンセルせずに乗車したか、犯罪者の手伝いをしていないか、などによって、信用スコアが上下します。信用スコアが高いと、ホテル予約の際に保証金が不要になったり、婚活サイトでは優先的に条件のいい相手を紹介してもらえたり、海外旅行のビザが早く取得できたりします。

信用スコアについて、多くの日本人は窮屈な制度だと考えているのではないでしょうか。私の知る限り、日本のマスコミでは例外なく、中国の信用スコアシステムを批判的に伝えていました。「なぜ中国人は財布を持たないのか」(中島恵著、日経プレミアシリーズ)という本にも、「日本は相手を騙すことの稀な成熟した社会なので、信用スコアなど考えもしないだろう」と信用スコアのある中国社会を見下した表現があります。同書には、「偽札が横行している中国ではスマホ決済は極めて有効だったが、偽札を一生に一度も見ることもない日本ではスマホ決済は不要だ」という表現もあります。これらは完全にピンボケした視点です。

信用スコアは、誠実で正直に生きている人が得をして、不誠実でウソをつく人が損をするシステムです。私は信用システムを窮屈とは全く感じません。窮屈に感じる人は、不誠実でウソをつく人のはずです。信用システムが不要なほど日本人が本当に誠実で正直であるなら、誠実で正直な人が得をする信用システムを拒否する理由はありません。

なにより素晴らしいのは、信用システムは、不誠実な嘘つきを誠実な正直者に変えていく作用を持っていることです。現在、中国人全体のマナーが急速に良くなっているのは、信用システムの普及と密接に関わっていると確信します。

日本で出会う中国人団体客は、まだまだマナーの悪い人たちが多いかもしれません。しかし、その大きな原因の一つは、日本でアリペイやウィーチャットペイが普及していないこと、つまり、日本で信用システムがあまり採用されていないことにあるでしょう。もし、日本で中国式スマホ決済が普及したら、中国人団体客のマナーも良くなっていくはずです。良くならざるを得ないはずです。

もちろん、信用システムには問題も多くあります。「無断キャンセルしたが、それには〇〇の事情があったからだ」といった個別の事情に細かく対応できないこと、民間企業が非公表の判断基準を用いていること、法を犯した人とネット上で友だちになるだけで信用スコアが下がるとなると、ただでさえ社会復帰の難しい前科者をさらに社会から排除するシステムになっていること、などです。信用システムの採用の上で、それらは疑いようもなく修正すべき重要な点です。しかし、そういった欠点への配慮は不可欠なものの、信用スコアのある社会が、信用スコアのない社会に戻るべきでない、と私は考えます。実際、信用スコアの長所を知った中国が、信用スコアを改良することはあっても、手放すことは、まずないでしょう。

日本も信用スコアをできるだけ早く採用すべきと考えます。もちろん、その時は上記のような欠点を修正した信用スコア、徹底した情報公開を取り入れた公平で社会道徳に沿った信用スコアを採用すべきです。

次の記事に続きます。