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ピンピンコロリは無理である

10年くらい前、全国紙を始めとしたマスコミで「ピンピンコロリ(略してPPK)」という言葉が流行しました。「人生の最後までピンピン元気でコロリと死ぬ」といった意味で、主に「そんな死に方が理想である」という前提で使われていました。その頃の私は医療従事者でなかったので、「たしかに理想なのかもしれない」と思っていました。しかし、医療従事者になった今は、ピンピンコロリを理想とする考え方には、大きな誤りがあると気づいています。

この言葉が高齢者の間であまりに普及したせいでしょう。2011年の日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団の調査で次のようなアンケート結果があります。f:id:future-reading:20180820203759j:plain

高齢者ほど、突然死を望んでいるようです。一方で、現実の日本の死亡原因は次のようになっています。

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1位の悪性新生物(癌)、3位の肺炎、5位の老衰など、日本の死亡原因の多くは、突然死ではありません。2位の心疾患と4位の脳血管疾患に至っても、ほとんどはピンピンコロリではありません。たった一度の心筋梗塞脳卒中で死ぬことは、最近の日本では稀です。通常、死ぬまでに何度も心筋梗塞脳卒中を繰り返します。その度に心臓カテーテル、バイパス手術、脳動脈瘤コイル塞栓術、開頭血腫除去術など、決して安くない医療費を使います。もちろん、周囲の人間を心配させるでしょうし、心筋梗塞脳卒中のため、体力の低下や麻痺も生じるので、周囲の人間の援助も必要になります。下のグラフにあるように、介護が必要な原因として、現在のところ、脳卒中認知症より多くなっています。

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こう考えてみると、ピンピンコロリが実現できる可能性は極めて低いことが分かります。そもそも、人間は生きたいように生きられないと同様、死にたいように死ねません。目標を持つことはいいのですが、上のような現実を考えれば、ピンピンコロリは虚構に過ぎないように思います。ピンピンコロリを理想としている方は、具体的にどの死因を考えているのでしょうか。まさか自殺や事故死なのでしょうか。

この記事では、ピンピンコロリの実現可能性の低さを主に証明してきましたが、次の記事では、ピンピンコロリが理想でないことを示していきます。