未来社会の道しるべ

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勤勉すぎる主婦たちが日本の生産性を下げる

遺伝的に日本人に勤勉な人の割合が高いとは思いませんが、能力のある人は極限まで勤勉にしてしまうのが日本社会のように思います。企業で働く日本人男性もそうですが、家庭でも日本人女性は平均すると世界一勤勉だと私は推測しています。

それがよく示す数値が、1960年の女性平日の家事労働時間4時間26分と、1970年での4時間37分でしょう(NHK国民生活時間調査)。この間の高度経済成長で掃除機、洗濯機、冷蔵庫が普及して、主婦の家事労働は格段に楽になったはずなのに、なぜか家事労働時間は増えています。家事に手間がかからなくなった分、日本の勤勉な主婦たちは家事の質を上げることに専念し、返って家事労働時間を増やしてしまったのです(「小林カツ代栗原はるみ」阿古真理著、新潮新書)。

これは日本人全体の幸福に大きく繋がっていたかもしれません。主婦たちが掃除や洗濯などに邁進し日本人の清潔感を上げたおかげで、公衆衛生が改善し、結核赤痢などの感染症が激減した可能性はあるでしょう。それに加えて、かつて先進国最低だった日本人の平均寿命がこの30年間世界1位を維持しているのは、主婦たちが手間ひまかけて毎回変化のある料理を家族に提供していることも大きいでしょう。私の知る限り、日本人ほど清潔な民族、日本人ほど料理に手間をかける民族は、世界中に存在しません。

1990年前後、世界で日本の存在感が最も大きかった時代、その繁栄の土台を作っていたのは、勤勉な男性企業戦士ではなく、さらに勤勉な家庭の主婦だったのかもしれません(数値化して客観的に示すのは難しいでしょうが)。しかし、他の日本の過去の必勝法と同じく、その方法は既に世界でも日本でも通用しません。むしろ、勤勉な日本の主婦たちが現在、日本全体の生産性を下げる要因になっていると私は考えています。

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このグラフのように日本の女性就業者率は上昇する一方です。一見、日本の女性が社会進出しているようですが、必ずしもそうとは言えません。

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ここで示されているように、日本女性の正規雇用はこの30年間ほとんど変わらず、就業率の上昇分は非正規雇用によって埋められているからです。

下のグラフのように日本なら男女問わず、非正規雇用なら賃金はたかが知れています。

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女性が社会進出したというより、女性がワーキングプアに仲間入りしたと考えた方が妥当でしょう。

パワハラの現状と日本の生産性の低さ」に書いたように、日本は国際比較して質の高いサービスを提供しているのにもかかわらず、サービス産業の生産性は国際比較して異常に低くなっています。この原因として、能力の高い女性が低賃金にあまんじていることがある、と私は考えています。2017年で非正規雇用2036万人のうち約3分の2、1389万人が女性です(総務省統計局・労働力調査)。この1000万人以上の女性が無能の人ばかりのはずがありません。世界最高水準の家事をこなす日本の主婦たちが働いているのですから、サービスの質は恐ろしく高くなります。それにもかかわらず、彼女たちの賃金は安いままです。世界最高水準の家事や育児などに時間をとられるため、フルタイムで働けない、つまり、非正規雇用になり、日本だと非正規だと低賃金だからです。

能力の高い女性が非正規の低い賃金で働いているので、同じ職場の男性たちは高い賃金を要求できません。能力の低い男性や女性は、非正規雇用にもなれません。結果、日本人の生産性は低くなります。これが日本のサービスの質が高いのに、日本人の賃金が低い一つの大きな要因だと考えます。

この問題の原因と解決策について、これからの記事で論じます。