未来社会の道しるべ

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外国人介護士・看護師を受け入れると日本の納税者も搾取されるシステム

「長寿大国の虚構」(出井康博著、新潮社)にある通り、外国人介護士の受け入れに積極的だった日本の介護施設経営者は決して少なくありませんでした。「ルポニッポン絶望工場」(出井康博著、講談社+α文庫)にある通り、経済産業省や外務省も外国人介護士受け入れに積極的でした。しかし、介護士不足の現状を十分に知っているはずの厚労省はなぜか消極的で、国会議員の中にも賛否両論あったようです。この混乱ぶりが、外国人介護士問題を迷走させます。

外国人介護士たちの就労が長引かないように、厚労省は国家試験合格というハードルを課しました。この国家試験ハードルは同じくEPAにて受け入れられた外国人看護師にも課されていますが、両者には根本的な違いがあります。日本人は国家試験を合格しないと看護師にはなれませんが、日本人は国家試験を合格しなくても介護士になれる点です。当時、介護職に就いている日本人のうち、介護福祉士の国家資格を持っている者は3分の1に過ぎませんでした。しかし、外国人介護士は来日後4年間のうちに国家試験に合格しなければ、介護士を続けることはできず、日本から帰国しなければなりません。こんな条件のせいで不利益をまず被るのは、介護を必要とする日本の高齢者たちになります。

看護師に着目すると、EPAで来日した外国人たちは3年間のうちに国家試験に合格しなければなりませんでした。しかし、2009年では82人受験し合格者がゼロ、2010年には245人が受験し合格者3名と惨憺たる結果でした。看護師国家試験は、日本人なら9割が合格します。外国人看護師たちは母国での国家資格を持った人たちに限られているのに、理不尽な日本語ペーパー試験が課されています。ちなみに、ドイツではボスニア・ヘルツェゴビナから受け入れた看護師に、一定期間の職場経験の後、「口頭試験」を受けさせ、75名全員を合格させたそうです。母国での有資格者なので、ドイツ人の医師や患者とコミュニケーションがとれているかを口頭試験で確認できたら、それで十分だと判断しているわけです。この理にかなった方法を厚労省は知らないのでしょうか。日本語のペーパー国家試験を外国人の看護師有資格者に課すなど、嫌がらせとしか思えません。

話を介護士に戻します。外国人介護士の受入数は2009年に406人だったのに、2010年には159人、2011年には119人と減っていきました。理由は上記の外国人看護師の国家試験合格者があまりに少なかったことです。介護施設は、斡旋手数料や日本語研修費などで一人あたり約80万円払うので、外国人介護士にはできるだけ長く働いてほしいと考えています。しかし、国家試験に落ちると、4年間で外国人介護士に辞めてもらわないといけません。そんな短期間しか働いてくれないのに、日本語のできない外国人介護士を雇いたくない、と介護施設経営者が考え始めたわけです。結局、介護士の受け入れは2年経過しても予定の半分にも満たなかったので、国際問題にもなりかねませんでした。

すると、日本政府は態度を急変して、外国人介護士一人の受け入れにつき年23万5千円の国家試験対策費用を支払って、外国人介護士の受入数を強引に増やします。「ルポニッポン絶望工場」では、この費用は国家試験対策費用という名のバラマキに過ぎないと断定しています。

腐敗はこれにとどまりません。「外国人実習生からピンハネする官僚たち」に書いたJITCOのような天下り機関が、外国人介護士の分野にもしっかり根を張っています。国際厚生事業団(JICWELS)という厚労省天下り先が、一人の外国人介護士を施設に割り振るだけで13万円を徴収する仕組みになっています。

それら費用を合計すると、外国人介護士・看護師の受け入れに4年間で80億円の予算が投入されています。その間の合格者は介護士と看護師を合わせて104人なので、単純計算すると、一人の合格者を出すために約8千万円使っている計算になるそうです。8千万円といえば、私のカナダ留学費用の40年分に相当します。

こうなってくると、被害者は外国人看護師・介護士や日本の高齢者だけでなく、日本の納税者全員になってしまいます。一方、受益者は日本と送り出し国の官僚だけです。これを腐敗と言わず、なにを腐敗と言うのでしょう。