未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

患者中心医療を実現するには患者も変わらなければいけない

「昔の医者は患者から賄賂もらっていたんですよね?」

私が年配の医者にこのような質問をすると、ほぼ決まって嫌な顔をされました。社会の腐敗を軽蔑してやまない人(私)に、それに関わった過去を白状したくないからでしょう。多くの医者はこう言い訳しました。

「受けとらないと、患者が納得しなかったんだよ」

それは事実だと思います。大昔は知りませんが、医者への賄賂が消滅しかけていた時代なら、ほとんどの医者は賄賂をもらいたい気持ちより、賄賂を忌避する気持ちが勝っていたはずです。ある医者はこう言いました。

「昔は永遠になくならないかと思っていた。でも、今は医師への賄賂は消滅した。いい世の中になった」

理想的な授業が行われるためには、いい先生だけでなく、いい生徒がいなければなりません。理想的な医療が行われるためには、いい医者だけでなく、いい患者がいなければなりません。

「医療は患者中心に行われるべきである」という姿勢は、医療業界で少なくとも20年間、提唱されています。他の先進国では、患者中心医療に進化しているようですが、日本ではいまだに医者中心の医療(パターナリズム医療とも呼ばれる)が主に行われています。「素人の患者は理解できないので、専門知識のある医者がなにをするかを決める」という医療から、「医者はそれぞれの治療のメリットとデメリットを患者に分かるように説明し、最終的に決断するのは、その治療の責任(不利益)を負う患者」という医療に日本はなかなか変わってくれません。

子どものために子どもの過剰診療をやめるべきである」にも少し書いたように、患者中心医療を妨げているのは患者側にもあります。日本の全ての医学部、薬学部、看護学校では、患者中心の医療を前提とした教育が行われていますし、各国家試験でも、患者中心の医療の問題が必ず出題されています。だから、若い世代の医療従事者は確実に、患者中心の医療を理解しています。しかし、どういうわけか、日本は他の先進国のように、患者中心の医療に変われません。「先生に全て任せる」「説明されても分からない」と責任放棄する患者が多くいます。患者に起こる疾患や医療ミスを医者が被ることはできないので、そんな姿勢は患者にとってはもちろん、医者にとっても好ましい医療ではありません。

とはいえ、永遠になくならないとも思われた医者への賄賂が消滅したように、医者中心の医療から患者中心の医療に日本でも必然的に進んでいくだろう、と私は考えています。早くそうなるよう現場と、こんな風にネットで患者教育活動を根気強くしていくことも医療従事者の仕事でしょう。