未来社会の道しるべ

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感染症は栄養摂取と休養が最適の療法である

上のタイトルは特に呼吸器感染症にあてはまります。日本の外来患者のかなりの割合を占める上気道炎(風邪や扁桃炎)、インフルエンザ、肺炎(特に非定型肺炎)は薬なしで治ります。これらの病気で、わざわざ寒い中クリニックまで来る必要はないし、大して効きもしない薬をもらう必要もありません。それより家で栄養のある食事を摂って、休養している方が病気を早く治せます。これは世界中の医者が知っていることです。しかし、日本中の医者、特に開業医がその医学知識と反対の処方を実践しています。そのため、インフルエンザの時は病院に行かなければいかない、と勘違いしている日本人が私の想像していた10倍以上います。私は医療職に従事するまで、熱や鼻水や咳やのどの痛みといった症状で、病院やクリニックに来る日本人がこんなにいるとは知りませんでした。

よほど生活に困る症状が1週間以上続いたりしないかぎり、私は医者にかかったりはしません。この20年間でいえば、のどの痛みが2週間以上続いた2回しか、呼吸器感染症ではクリニックに行っていません。それも結局、風邪と診断されましたが、風邪の特効薬はないはずなのに、なぜか4剤も処方され、そのうちの一つは抗生剤でした。薬局で薬の効能を聞いて、私には意味がないと判断したため、1剤も受け取らずに帰りました。案の定、それから1週間もしないうちにのどの痛みは治まりました。なお、この長期間の咽頭痛は、私の持病となり、その後も2年に1度は同じような症状が出ますが、2回目に試しに受け取った抗生剤もその他の薬も全く効かず、唯一のどの痛みを抑えたのは市販ののど飴です。だから、同じ症状が出ても、3回目以降はクリニックには行っていません。それよりも栄養摂取をこころがけています。確かに、よく栄養を取っていると(よく食べると)、治りが早いです。

私は医療従事者なので、ただの風邪やインフルエンザでクリニックに来るメリットがないことを知っています。インフルエンザ薬のタミフルはウイルスを殺す薬ではなく、ウイルスの増殖を抑える効果しかないので、インフルエンザが陽性と出る頃には、既に体中にウイルスが回っているため、あまり効果がないことも知っています。世界の50分の1以下の人口の日本人が、世界中のタミフルの7割を使用していることも知っています。インフルエンザ症状が出たと思ったら、わざわざインフルエンザか風邪かを確かめず、どちらにしても他人に感染させるので、学校や仕事を休めばいいだけです。インフルエンザと確定したら、学校や仕事に行くべきでないと分かるので、インフルエンザの検査(鼻に綿棒を突っ込むので気持ち悪いですが)をしたい気持ちまでは、まだ分かります。しかし、上のように効果が疑問視されて、副作用もあるタミフルやイナビルを使用したがる気持ちまでは、よく分かりません。

だから、ただの風邪で、薬をもらいたがる気持ちはもっと理解できません。風邪ウイルスを退治する薬はなく、出される薬は全て風邪症状を抑える薬です。また、風邪の症状のうち、鼻水を止める薬、のどの痛みを止める薬は、まだ存在しません。厳密には存在していますが、それらは全て偽薬と比べて効果が示されていない薬か、副作用が強すぎる薬です。もちろん、そんな薬で副作用が出ないで効く体質の人たちもいますが、そう理想的に効く確率は高くありません。それに、風邪にかかったとき、鼻水は止めてはいけません。鼻紙などに出すべきです。

いわゆる総合感冒薬(PLやPA)は、効果よりも副作用が強く出ます。いろんな薬の混合剤だからです。これをただの風邪で簡単に処方している医者は怪しいと思って間違いありません。しかし、そんな医者が日本の開業医には少なくないと、医療従事者になって知りました。

私の周りの良心的な医者の多くから「開業医こそ日本医療の最大の無駄」という意見を何度も聞いてきましたが、私にもその意味がようやく分かってきました。「3時間待ちの3分診療は問題なのか 」で書いたように、短時間診療にも意義はあると考えますが、「薬を出す意味がないことは知っているが、薬なしだと納得してくれないし、安価な薬だから処方している」、「ウイルス感染に抗菌薬が効かないのは百も承知だが、細菌感染の可能性はゼロでないし、患者さんが希望するから抗菌薬を出す」のは明らかに異常で、私の知る限り、日本以外の国ではありません。たとえ患者さんの希望に沿わなかったとしても、正しい情報を伝えることが、専門職である医師の役割であり、存在意義のはずです。