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抽選制民主主義

代議制民主主義の国では、国民が民主的な投票によって代表者を選び、その代表者たちが国民の守るべき法律を定め、税金をどう徴収するかを決め、税金をどう使うかを決めます。

これは合理的に思えるのですが、なぜこの政治形態が上手くいかないのでしょうか。国民が選んだ代議士の政治に、どうして国民が不満を持つのでしょうか。

その大きな理由の一つに「民主選挙で決まる人」と「適切な政治判断ができる人」が一致していないことがあるでしょう。国民から選ばれるためには、当然、自己アピールが得意な人でなければなりません。口下手な人はまず選ばれませんし、外見の悪い人だって選ばれにくいでしょう。しかし、自己アピールの上手さや外見の良さは、適切な政治判断ができることと直接の関係はありません。

では、選挙以外のどのような方法で「適切な政治判断ができる人」を決めればいいのでしょうか。一つには、試験で決める方法があるはずです。民主政治の行政と立法は、官僚と代議士によって運営されていて、特に日本では官僚の権力が強いそうですが、官僚は主に試験によって選抜されています。試験による選抜は、どのような試験で判定するか、今のような若者だけの採用でいいのかなどの問題はあるものの、妥当な方法だと私は考えています。

もう一つの方法として、抽選があるでしょう。「投票価値試験の公平性 」で示したような簡単な試験を全有権者に課して、その試験で一定点数以上の結果を出した者から抽選で代議士を決める方法です。

なお、抽選で決まった代議士の個人名は明かされません。任期中に下した決断に対して、代議士が責任をとらされることもありません。マスコミ発表は「23名の議員の提案により、十分な所得のある高齢者の医療保険料の全額自己負担が審議されました」「議員Aが○○の提案をし、議員Bの××の質問に△△と答えています」となり、特定の議員名が出されることはありません。

このような抽選制民主主義を採用すれば、次のようなメリットがあるはずです。

1、代議士に2期連続でなれなくなるので、権力の固定による腐敗が防げる

2、代議士が特定されないので、代議士への利益供与を防げる(当然ながら、偶然特定したとしても、代議士への利益供与は厳しく罰せられます)

3、選挙活動費が節約できる

4、一部の政治エリートのためだけでなく、一般人のための政治が行われやすくなる

ところで、現在の日本では地方自治体に首長がいます。首長まで抽選で決めると、あまりに不適切な人物が選ばれた場合の弊害が大きくなります。首長のような一人代表者まで抽選制を適用するのは避けるべきでしょう。それ以外にも、今すぐ思いつくだけで以下のようなデメリットが抽選制にはあります。

1、議会の公開度が下がる(議会の映像にはモザイクがかかり、音声も変更処理されます。議事録の発表者は全て匿名になります)

2、政治の専門家でない者が政治を動かすことになる

3、有権者が信頼していない者が有権者に強制力を持つことになる

4、政治では判断が重要であるが、全ての判断は完璧ではない。その不完全な判断を有権者に適切に発表して、信頼してもらうことの方が重要な場合もあるが、特定の人が発表できないので、適切な発表ができにくくなる

他にもデメリットはあるでしょうが、十分に洗練された抽選制民主主義なら、少なくとも現状の日本の代議制民主主義より、遥かに優秀な制度になれると私は確信しています。(ただし、代議制民主主義のままでも、現状よりも優秀な政治制度は作れるとも思っています。その一つの改革案を「投票価値試験」に書いています)