未来社会の道しるべ

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人間は無意識に自分の過去を肯定する

徴兵制は国民に戦争への肯定感を与えるので反対だ」

私が友人のユダヤ人に言った言葉です。その意見に、徴兵制のあるイスラエル出身の彼が反対しました。

徴兵制は国民を戦争嫌いにさせる要素もある。徴兵を楽しみにしている奴なんて、まずいなかった。終わってからも、忌まわしい記憶みたいに口を閉じる奴も多い」

私は覚悟を決めて、彼に反論しました。

「率直に言って、その考えはほとんど間違っていると思う。キミが僕と比べて戦争に肯定的なのは、徴兵経験が影響していると確信している。怖いのは、キミでさえ、徴兵が与える影響に無意識であることだ」

いつになく真剣な私の言葉に彼は腕を組み、上を向いて、しばらく考えていました。

西洋先進国の私の多くの友だちや知人同様、日本人にしては革新的と言われる私から見ても、彼は極めて革新的に思えました。彼は理想主義で、私の現実主義と衝突するのが、通常の会話パターンでした。

しかし、平和についての考え方だけは、彼は私よりも保守的でした。当初は、イスラエルユダヤとアラブの衝突が繰り返されているためと思っていましたが、どうもそれは大した影響を与えていないと分かってきました。彼の出身地では、アラブとユダヤ武力衝突など、彼が生きている間には起こっていないに等しいです。「それよりも交通事故の方がずっと多い」と彼は言っていました。「自爆テロで死ぬ人よりも、普通の犯罪で死ぬ人が多いのに、なんで自爆テロだけ大きなニュースにするのか」という愚痴もよく言っていました。

しかし、「お互いに武装解除して、暴力ではなく話し合いで解決すべきだと思う」という私の意見に、彼は非現実的と反対していました。その他にも、戦争に関する時事問題では、ほぼ常に、彼は私よりタカ派でした。大抵、彼は私より理想主義であったのと対照的だったので、その理由を私はずっと考えていて、そのうち、彼との対話、および私の人生経験から、彼が戦争を肯定しているのは徴兵経験にあると確信して、上のような発言になったのです。

彼が考えている間に、私が補足しました。

「人間は自分の過去を無意識のうちに美化してしまう。その方が楽に生きられるからだろう」

「それには同意する」

「キミから徴兵時代の愚痴を聞いた記憶がほとんどない」

彼は笑ってうなずき、こう返答しました。

「そう言えば、徴兵前に嫌がっていた奴らも、終わったら、いい経験だった、と言う奴が多かったように思うな」

人間は自分の過去を自動的に正当化してしまいます。その考えを私は20才くらいの頃から強く意識するようになりました。よほど意識しないと、流されていることに気づかないからです。もちろん、流されて好ましい場合だってあるでしょうが、そうでない場合もあります。

当たり前のことですが、その危険性に気づいていない人が多いように思うので、あえて、ここに書いておきます。