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男子問題の時代

「男子問題の時代?」(多賀太著、学文社)によると、西洋諸国の方が男子問題に対する人々の関心は圧倒的に高いそうです。特に学齢期の男子にみられるさまざまな問題は、深刻な社会問題として見なされてます。各国のメディアは、男子の方が恵まれない性であると言わんばかりの報道を繰り返しているそうです。

西洋諸国でも1990年代までは、ジェンダー問題といえば、女性の問題と同義でした。なぜ男子の不利益が強調されるようになったかと言えば、イギリス、ドイツ、アメリカなどの多くの西洋諸国の学力で、女子の平均が男子の平均よりも優位に高いことが判明したからです。2007年のアメリカでは、女子の大学進学率は男子よりも1.3倍も高く、ドイツで最も学力が高い中等教育機関ギムナジウムの進学者は女子の方が多く、大学進学率も女子の方が高くなっています。

また、男子は女子に比べて、特殊学級で学ぶ割合が高く、学習障害と診断される割合が高く、留年率が高く、自殺率が高く、虐待の被害者となる割合が高く、刑務所に収容される率が高く、学校生活を楽しむ度合いが低く、学校生活で失敗しやすい態度を持ちやすいことが、どこの国で調査しても共通して示されました。

これらの統計事実から、オーストラリアで2005年から2006年にかけて国家予算2000万ドルもの「男子のための成功計画」が実行されています。

1990年代半ばから、学齢期の男子が問題であるとの認識が西洋諸国で広く受け入れられているのに対して、同じ先進国の日本では、そんな問題意識は広がっていません。著者が指摘している通り、日本で問題になっている男性の問題といえば、学齢期ではなく、青年期です。

「フリーター」と「ニート」は代表的な男性青年期問題の専門用語でしょう。フリーターとニートは必ずしも男性だけを指す言葉ではないのですが、既婚女性や家事従事者は除くという定義から、男性が一家の稼ぎ手という前提のもとに社会問題化してきた側面が大きい、と社会学者が指摘しています。

また、日本だけに存在する「草食系男子」という言葉も、性関係や恋愛に対して積極的になれない「男子」の問題とされています。古今東西、恋愛や性関係に積極的になれない草食系女子は草食系男子より遥かに多くいて、現代日本の草食系女子の異常な拡大が草食系男子を社会問題化するほど生んでいると私は思うのですが、そんな発想をするのは日本で私だけかもしれません(とはいえ、恋愛に積極的でない女性が恋愛に積極的でない男性より遥かに多くいるのは簡単に統計で示せます)。

ところで、学齢期の女性優位の格差は、日本でもあります。少年鑑別所入所者に占める男子の割合は女子の8倍以上であり、不登校やひきこもりは圧倒的に男子の方が多く、19才以下の自殺者に占める男性の割合は69.3%と女子の2倍以上です。それにもかかわらず、なぜ日本では青年期の男性問題は提起されても、学齢期の男性問題は提起されないのでしょうか。

その理由は一つではありませんが、日本の大学進学率において、男性が女性をまだ上回っていることは大きいでしょう。また、青年期の自立の困難、親への依存期間の延長、特に若者の就職難については、欧米では男女問わず、1970年代から話題になっていました。だから、学校から社会へスムーズに移行できない青年期の男性問題は、1990年代には欧米社会で真新しくなく、むしろ学齢期の男性問題が注目を集めはじめたようです。日本でも欧米のように、いずれ学齢期の男性問題が注目される時代が来るのかもしれません。欧米では、学齢期の女性優位がいずれ社会全体での女性優位につながる、と恐れられているために注目されているようです。

学齢期の男性問題は注目されていませんが、成人期の男性の生きづらさは日本で盛んに語られています。内閣府の全国調査で、「現在幸せである」と回答した人の割合は、2000年から2010年までの8回全てで、女性よりも男性で低くなっています。しかし、一方で、男女の賃金水準、国会議員の比率、管理職の比率のように、他国に比べての圧倒的な男性優位もあります。「男性優位なのになぜ男性が生きづらいのか」の理由として、著者は「無理をして男性優位の社会を維持しようとしている副作用」と指摘しています。私も全く同感です。

女が貧乏な男と結婚していれば少子化など解決する」でも指摘したように、これは男性側のプライドの問題が大きいでしょう。もちろん、どんなに自分の収入が高くても男性に自分以上の収入を求めて当然と考え、弱者男性を無視してきた女性にも原因があります。

男性に生まれたからこそ、女性と恋愛をしたり、性関係を結んだり、結婚したりする機会に恵まれない「恋愛貧者」や「結婚難民」は若い世代に少なくありません。「女の方が損だ」と思っている女性全員に、男性並みの性欲を持ちながら、そんな人生に耐えられるか、質問してほしいです。特に、弱者男性を完全に無視して、女性は常に被害者という固定観念を持ち続けている(としか思えない)朝日新聞の記者には、必ず聞いてほしいです。