未来社会の道しるべ

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デメリットだらけの漁獲枠オリンピック方式

前回までの記事の続きです。

世界ではIQ方式、もしくはITQ方式が一般的です。漁獲枠配分がいまだにオリンピック方式なのは日本くらいです。

IQ方式とは、漁業者あるいは漁船ごとに漁獲量を割り振る制度です。ITQ方式は、その割り振られた漁獲枠を金銭取引きできる制度です。オリンピック方式はヨーイドンで漁業を開始して、全体の漁獲量が漁獲枠に達したら終了する制度です。オリンピック方式は分かりやすいように思うのですが、現在ではIQ方式またはITQ方式がオリンピック方式より漁業の生産性を高めることが明確になっています。

実例を見てみます。カナダの銀ダラ漁業は1981年~1989年までオリンピック方式で管理されていました。

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ここで注目してほしいのは、棒グラフです。年間出漁日数が毎年短縮しています。1981年には245日だったのに、89年にはわずか14日になったのです。早い者勝ちなので、漁業者は解禁と同時に全力で獲ろうとします。全ての漁業者が少しでも早く多くの銀ダラを獲るために、船への設備投資を繰り返して、漁期が10年で10分の1未満まで激減したのです。

結果、漁業が経済的に厳しい状況に追い込まれました。全体の漁獲高が増えるわけでないのに、船への設備投資はかさむので、その分だけ利益は減ります。また、獲った魚の事後処理をゆっくりする暇もありません。急いで処理をして、次の網を入れることになります。魚の扱いは雑になり、質と価格が下落します。

オリンピック方式は、加工業者にとっても不利です。解禁直後に大量の水揚げがあるので、加工業者は加工ラインを増やす必要があります。しかし、そのラインが活用されるのは1年のほんの一時期に過ぎません。船だけでなく加工場の設備投資もムダになります。

消費者にとっても不幸です。漁期が短くなれば、新鮮な魚を食べられるのは1年の一時期だけです。それ以外の時期は、冷凍物しか小売店には並びません。

オリンピック方式で早獲り競争しても、漁業者、加工業者、消費者の誰も得をしません。得をするのは、船のエンジン会社や加工工場整備会社くらいではないでしょうか。

下のグラフはIQ方式導入後の変化です。変更後は1年365日、新鮮な銀ダラが食べられるようになったことが分かります。

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上のグラフで興味深いのは、オリンピック方式の時代、漁獲量が漁獲枠を常に上回っていることです。もちろん、日本のように漁業者や漁業組合が嘘の報告をしたり、政府が取り締まらなかったりするわけではありません。ちゃんと守っているのに、こうなるのです。なぜなら、これまでの漁獲量の推移から漁獲枠に達する24時間前に漁の終了を告知されるのですが、その最後の24時間にこれまでの推移を遥かに上回るほど、全ての漁業者が頑張ってしまうからです。

IQ方式で、各漁業者に漁獲枠を割り振っておけば、漁業者は一匹一匹の魚の質を上げることに専念します。加工場の要望通りに、1年を通して収穫するようになります。

ところで、ディスカバリーチャンネルカニ漁業のドキュメンタリー番組「deadliest catch(ベーリング海の一攫千金)」があり、大ヒットして現在までシーズン15まで放送されています。シーズン1の2004年はオリンピック方式でカニ漁船が行われた最後の年だったので、ITQ方式に漁業が切り替わる記録映像にもなっているそうです。

そのカニ漁業ですが、下のグラフのようにITQ方式になってから炭素消費量が半分未満になっています。

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オリンピック方式の時代は、常に時間との戦いで、エンジン全開が必須でした。ITQ方式になってからは、漁場に急ぐ必要がなくなったので、漁期が12倍に伸びたにもかかわらず、ガソリンの量もエネルギー効率も劇的に改善したのです。オリンピック方式は、地球環境の面でも悪いことが分かります。