未来社会の道しるべ

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乱獲で自滅しているバカな国とそれを知らないバカな国民

ノルウェーアイスランドと並んで、ヨーロッパの中では魚介類を日本人並みに消費する漁業国です。1960年代の油田の発見で財政が潤ったノルウェー政府は、既に儲からない産業になっていた漁業に莫大な補助金を与えました。結果、1970年代にノルウェー漁業は「補助金漬け→過剰な漁獲努力→資源枯渇→漁獲量減少」と日本と同じ状況に陥ってしまいます。下のグラフは、ノルウェーの漁業で伝統的に重要な北海ニシンの漁獲量の推移です。

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1960年代後半から、北海ニシンが減少するにしたがって、漁獲率が急上昇しました。資源が少なくなると、漁業者は頑張って獲ろうとするので、漁獲圧が強まるという悪循環です。グラフを見ての通り、1970年代後半には北海ニシン漁は崩壊寸前までいったため、それまで年間の漁獲率が7割だったものを、いきなりほぼ禁漁にしました。国民に馴染みのある魚が獲れなくなったので、当然、漁業は大混乱に陥りましたが、これにより首の皮一枚で北海ニシン漁は崩壊から免れます。禁漁の効果は1980年代には目に見えて現れて、資源量は回復していきます。現在、北海ニシンは1年くらいの乱獲では崩壊しないでしょうが、過去の失敗を繰り返さないため、漁業者たちは漁獲規制を遵守しています。

一方で、下のグラフは北海道でのニシンの漁獲量の推移です。

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1960年頃に北海道のニシン漁は崩壊し、それは60年後の現在まで続いています。理由は乱獲して、資源が減少していたのに、政府が厳しい漁獲規制をかけなかったからです。

本当にバカな話ですが、まだ続きがあります。乱獲は漁獲量を減らすだけではなく、魚の単価自体を下げます。下にノルウェーでのサバの生産量と生産額のグラフを示します。

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生産量は横ばいなのに、生産額は上昇しています。これはグラフ下に書かれているように、油ではなく食用に供されるようになったからでもあり、世界的に魚食の需要が増加しているからでもありますが、「品質向上」させたからでもあります。

品質向上させる方法はいろいろありますが、一番簡単な方法が稚魚ではなく成魚になってから獲ることです。

たとえば、日本ではブリの7割が0才の稚魚の段階で獲られます。

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0才のブリは1㎏あたり100円にしかなりません。しかし、3才以上のブリは1㎏あたり1500円以上にもなるのです。2008年のブリ0才魚の漁獲高は約3600万尾で生産額は40億円でした。しかし、0才の小さいブリを漁獲せずに、3年後に大きくしてから獲れば、体重は9倍に増えて、重量あたりの単価も15倍に増えるのです。成魚になる間に自然減で4割に減ったとしても、漁獲重量は3倍、生産額は50倍になる、と「漁業という日本の問題」(勝川俊雄著、NTT出版)にあります。

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なぜ漁業者は3年が待てないのでしょうか。二束三文の稚魚を獲るよりも、大きくしてから獲った方が儲かると知っているのに、なぜそうしないのでしょうか。

やはり、それは公的機関による漁獲規制が機能していないためです。完全な早い者勝ちの世界になっているのです。意識の高い漁業者が魚の成長を待って獲ろうと思っても、他の誰かに獲られてしまいます。一部の仲間に禁漁を呼びかけても、他の連中が破ってしまったら、意味がありません。次の記事にも書く通り、日本漁業は正直者だけがバカを見る世界になっています。

特に経済的に厳しい漁業者は、数年先まで待てません。自分が一時的に逃した稚魚の大群を、もう一度自分が獲れる可能性は1%もないのです。上記の本の著者は「同じ状況だったら、私だって0才魚を獲るでしょう」と書いています。

次の記事で、日本のTAC(総漁獲枠)制度の欠陥を示します。