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「相続税の拡大」と「年金課税の累進化」は今すぐ実現できる有効な財政健全化政策である

子育て支援と経済成長」(柴田悠著、朝日新聞出版)は読む価値のほとんどない本でした。客観的な部分は分かりきった内容で、主観的な部分は私にとって首をかしげたくなるような見解でした。しかし、おまけのように最後の章にある「財源をどうするか」だけは読む価値があったと思います。

財政赤字が破滅的であることは教養のある全ての日本人が知っていますが、具体的な財源案はあげられる人は少ないのではないでしょうか。「無駄な公共工事をやめればいい」「役人が多すぎる」「政治家が儲けすぎている」などのように、支出の削減案はよく言われます。しかし、財源案となると「日本人は平均1000万円も貯金があるのだから、金持ちから税金をとればいい」「(金のつかい道がないくせにお金持ちの)高齢者から税金をとればいい」という批判が聞かれるだけで、具体的にどの税金をどう増やすかについて、少なくとも私は、ほとんど聞いたことがありません。私は「富の不公平を失くすために 」の記事で累進資産税などを提案していますが、それによりどれだけの税金収入が上がるのか考察できていないので漠然としています。

一方で、「子育て支援と経済成長」の財源案は具体的かつ現実的です。「霞が関埋蔵金」「消費税の引き上げ」「配偶者控除などの限定」「資産税または所得税の累進化」「年金課税の累進化」「相続税の拡大」をそれぞれ数値含めて検討しています。

霞が関埋蔵金」について私は知識がないので、ここでの考察はやめておきます。

「消費税の引き上げ」は安定財源としてよく提案されます。消費税1%増で財源約1兆円増らしいですが、あれだけ支持率の高い安倍政権でさえ、消費税増を何度も延期したことから、実現は容易でないでしょう。

配偶者控除などの限定」は財源ではなく支出の削減なのですが、ここでも考慮します。いわゆる専業主婦が年金や健康保険料を払わなくても、医療費が3割負担で済み、老後の年金をもらえる特権のことです。女性を本当に社会進出させたいのなら同時に議論すべき特権ですが、女性社会進出と一緒に議論されている記事を、私は読んだ記憶がありません。かりに中間値の世帯所得600万円以上に専業主婦特権を廃止すると、年間1.5兆円の節税になるようです。上位30%の世帯所得800万円以上の専業主婦特権廃止で0.9兆円の節税です。

私も提案した「資産税」も本では考察されています。かりに純資産総額1億円以上の267万世帯に毎月4万円の課税をしたら、年間1.3兆円が財源になります。しかし、タックス・ヘイブンへの規制と、金融資産の把握は難しいという問題があります。

所得税の累進化」は2015年に実施され、最高税率が40%から45%になって財源が0.06兆円増えたそうです。1983年までは最高税率75%でした。現状から75%まで増やすとどれくらい増えるのか、著者も私も分かりませんが、単純に40%→45%の5%増で財源0.06兆円増からの比例計算では30%増で財源0.36兆円増となります。ここまで少なくなくても、せいぜい1兆円程度であると著者は推測しています。ここで注目したいのは2015年の累進所得税増税に、ほとんどの有権者が抵抗しなかった点です。つまり、実現可能性が高い政策だと言えます。

「年金課税の累進化」として貯蓄額が3000万円以上の世帯からは毎月1万円、住宅・宅地資産額が3000万円以上で毎月1万円の課税を著者は提案しています。これにより年間1.2兆円の財源が生まれます。

著者が最も筋が通ると考えているのは「相続税の拡大」です。現状、相続遺産は3000万円が基礎控除となって、さらに配偶者や子などの遺産を受ける法定相続人の数×600万円も基礎控除となります。おまけに、配偶者に限っては1億6000万円までが基礎控除となります。ここまで基礎控除があるので、相続遺産の総額は37兆~67兆円と推計されていますが、2015年の相続税収はわずか1.8兆円です。

相続税を廃止した国もある中で、国際的にいえば、日本の相続税は課税ベースでも税率でも高い方です。しかし、生まれた時点での格差を縮小し、機会の不平等を是正できるので、相続税増税を断行すべきだと著者は主張します。

著者の提案では、3000万円の基礎控除を廃止し、配偶者の基礎控除を1000万円、子の基礎控除を100万円として、10~55%となっている累進性相続性を一律5%増にします。これで2兆円の財源ができます。かりに相続税1%増でも、0.4兆円の財源となるようです。

2015年に相続税の相続基礎控除の縮小と税率引き上げが行われたそうですが、反対した者はわずかです。だから、著者はこの政策の実現可能性は高いと考えています。なお、「資産税」同様、相続税を急増させると、富裕層がタックス・ヘイブンを使って課税逃れをするので、その規制は必要です。

本を読んで一番ショックだったのは、このような財源情報を私が全くといっていいほど知らなかったことです。日本がこれほど財政赤字に苦しんでいるのですから、財源案はもっと数値をあげて考察しなければいけません。しかし、どのマスコミも消費税を除けば、財源案をろくに考察していません。「〇〇を増税すべきである」と書くと、それによって損を受ける者が反発すると恐れているのでしょうか。

上記のような財源情報は、全てのマスコミに載せるべきでしょう。そのような情報が国民に周知されなければ、国民が財政健全化できる政治家を選ぶこともできないので、財政赤字は悪化する一方です。

この記事を読んだ方は、ぜひ上記の情報を多くの方に周知してほしいです。