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ウルグアイラウンドとTPP交渉に見る日米外交の根本的な違い

「亡国の密約」(山田優著、石井勇人著、新潮社)を読んでいると、日本とアメリカでの外交の質的な違いが嫌でも分かります。70年前の日本の独裁者、マッカーサーの言葉を借りれば、アメリカが大人の交渉をしているのに対して、日本は「like a boy of twelve」です。

著者が主張する通り、日本と違ってアメリカが文句なく素晴らしいのは、外交の公的情報を公開する制度が整っていることです。2011年にアメリカの情報公開法に基づいて、外国人の著者が外交文書の公開を電子メールで求めたところ、日本の農水省が未だに認めていないミニマムアクセスの増量についての情報が含まれている上、「この情報公開に不服があれば、申し立てができる。時期がきたら、また請求してみたらどうか」との担当者のアドバイスまで添えられていたそうです。このブログでも「日本の歴史はいつになったら神話ではなく事実に基づくのか」などで嘆いたことですが、日本はできるだけ早く情報公開制度を整備すべきです。

ウルグアイラウンドでは、アメリカが国民的な公開議論により問題を解決しようとするのに対し、日本は徹底して密室での議論で問題を解決しようとしていたことが「亡国の密約」で示されています。

正式に条約を締結する前に、「ミニマムアクセスと量を制限して、米を輸入する」と両国の官僚同士で条約内容が決まっていました。しかし、徹底反対勢力の農協のいる日本側から米の一部輸入を提案するわけにはいきません。だったら、アメリカ側の提案に同意した形にすればいいのですが(そして、実際その通りなのですが)、そうしても、アメリカに屈したと農協から批判されるので、まだ日本側の官僚は納得しません。結局、ドゥニGATT事務局長が米を一部輸入するよう日本に提案して、それを日本が同意した形にしよう、となりました。もともと日米の官僚間で同意した内容を、GATT事務局長に発案させる、という変な儀式を国際的に行っているのです。

日本は不平等条約での失敗を150年間も繰り返し続けている」に書いたように、日米官僚間の合意時に、アメリカ側は政府全体でも情報共有して納得していますが、日本側は一部の官僚しか情報共有していません。だから、法体系上、条約内容について納得すべき政治家たちに、官僚間の合意の後に事情を説明しています。しかも、官僚たちが事情をまず説明した政治家たちは、農水大臣ではなく、自民党農水族議員たちだったりします。事情のよく知らない農水大臣には、ろくに説明もしないまま、「ここまで来たら反対は許されない」という流れに乗せて、条約署名の儀式をほぼ自動的に行わせています。

なぜ、アメリカのように公開討論して、米の輸入を日本人全体に認めさせられなかったのでしょうか。

本には、ウルグアイラウンド当時、農協の政治力が非常に強かったことが示されています。農協の保険・金融部門がいかに大きな組織であるかも書かれています。しかし、それを十分に考慮しても、1990年でさえ就業人口で10%未満の農業が、対GCP比であればさらに低い率の農業が、日本の貿易政策全体を左右させた事実に納得できません。大多数の日本人は「米の関税化は止むを得ない。そこでもめすぎると、小利にこだわって、大利を失うことになりかねない」と考えていたのではないでしょうか。いえ、国民の感情を議論するまでもなく、事実、そうだったはずです。米の関税化を阻止しようとするあまり、米の一部輸入を認めて、アメリカに秘密裏に優遇枠まで設けて、現在まで3000億円もの赤字を生んでいるなんて、愚の骨頂です。たとえ農家からの大反対があっても、ウルグアイラウンドを日本全体の利益になるように内容を修正して、条約を締結すべきでした。政治家や官僚たちは農家を含めた国民に納得させるべきでした。

なぜ、それができなかったのでしょうか。

その答えの一つを「日本人である前に人間である」に書いておきました。