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なぜ歯科の保険診療総額は増えないのか

歯科医師の数は右肩上がりです。

f:id:future-reading:20190308221835j:plain日本で医師の数が約30万人ですから、歯科医師数約10万は多すぎです。誰だって歯科医師数を制限したくなります。だから、かつて90%合格が当たり前だった歯科医師国家試験の合格率を70%程度まで低くして、新しく歯科医になる者を制限しています。

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歯学部は6年制です。人生の中で6年が短い期間のわけがありません。そんな長期間も歯学の勉強をした人物を歯科医にさせないなど、人材の無駄遣いです。それは厚生労働省も分かっているので、歯学部の入学者数を制限したいのですが、歯学部は私立が多いため、それがなかなかできていません。

一方で、歯科の保険診療総額は現在2.8兆円で、ここ20年間ほど、あまり変わっていません。

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医療費は増加傾向なのに、歯科だけ割を食っている、と不平を言う歯科医を私は何名も知っています。なぜ厚生労働省は、歯科の保険診療総額を上げないのでしょうか。

理由は単純です。日本人の歯の病気が減っているからです。歯学だけではなく、医学の教科書にも載っている統計事実ですが、12才の日本人の虫歯の数は、フッ素入り歯みがき剤の普及により、劇的に減っています。

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科学的に示された歯の健康増進は、フッ素入り歯みがき剤と歯みがき習慣の普及です。「歯みがき100年物語」(ライオン歯科衛生研究所編、ダイヤモンド社)によると、1925年の児童の1日あたりの歯みがき回数は、朝1回47.3%、夜1回1.8%、朝晩が7.2%です。それが2011年の児童の歯みがき回数になると、1日2回61.1%、1日3回以上22.0%、1日1回14.3%となっています。

子どもの虫歯が減っただけではありません。高齢者の歯の数も増えています。80才で20本の歯を残している人は1987年で、わずか7.0%でした。1987年は8020運動が提唱された年で、当時、これは相当に高い目標と思っていたようです。しかし、2011年に8020を達成している人は40.2%と激増しています。

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断定します。予防医科の成果です。もちろん予防に邁進してきた歯科医たちの貢献もあるでしょう。しかし、虫歯になった時だけ治療してきた歯科医たちの成果では、決してありません。

虫歯も減って、歯周病で失う歯も減ったのですから、必然的に、歯医者の需要は下がります。厚労省の本音としては「歯の病気が減ったのだから、歯科の保険診療総額が増えないのは当然だ。むしろ、減らしたいくらいだ」になるでしょう。

歯科の保険診療総額が増えないからといって、全体としての日本人はそれほど困っていないはずです。事実、「歯科の保険診療費用が安すぎる」「歯科医の収入は減る一方だ」と嘆いているのは、歯科医たちだけです。しかし、下のグラフにあるように、それでも歯科医の収入は、一般の日本人よりも遥かに恵まれています。多くの日本人は「歯科の保険診療費用が安いのはいいことだ。不満があるなら、今すぐ歯科医を辞めろ」と言いたいでしょう。

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こちらの記事で、「予防医療で医療費は削減できない」というトンデモ説を批判しましたが、上の歯科の例にもあるように、予防医療が医療費を削減できるのは間違いありません(し、そもそも削減できるべきです)。同様のことは、医療全体にも言えるはずです。「高齢者が増えたからといって医療費が増えるとは限らない」の記事に続きます。