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ピンピンコロリが実現できない理由は医者にある

ピンピンコロリは無理である」と「ピンピンコロリは理想でない」の続きです。

ピンピンコロリが不可能な理由はどこにあるのでしょうか。それは医学の進歩、および医療アクセスの充実です。もはや心筋梗塞脳卒中を起こしても、すぐに救急車を呼べば、特に後遺症もなく過ごせる時代になりました。70代になっても80代になっても、全身麻酔の必要な手術を日本中の病院で行っています。「こんな状態の患者さんを手術するんですか? 手術費はいくらなんですか? その手術費のほとんどはこの患者さんが払うのではなく、国が払う、つまり、未来の世代に担わせることを知っているんですよね?」 そんなことを私は何度も思ったことがあります。しかし、「患者さんが希望しているから」の一言で全て退けられます。治療を行うかどうかの決定権は、その患者さんにあります。医療者にはありません。

私が疑問に感じているのは、まさにその点です。確かに、患者さんが心から治療を望んでいるなら、私もある程度は納得できます。しかし、患者さんが当初望んでいない場合でも、日本なら医療者の説得により治療が行われています。たとえば、DNR(Do not resuscitate=蘇生をするな)の同意を入院時に本人から得ている時でも、「同意文書がないから」「家族の同意はまだとっていないから」といった理由で、患者さんが心停止した時、心臓マッサージが行われています。本人の同意も家族の同意も全て文書で揃っていた時でも、「それは心不全が原因で死ぬ場合のはなし。腸閉塞の同意はとっていない」といった理由で、緊急手術が行われることも普通です。

終末期に限らず、まだまだ日本は、患者本人よりも医療者が強い決定権を持っています。もちろん、患者さんや患者家族が反対しているのに、医療者が治療を強行することは今の時代ないでしょうが、「なにもしないと死ぬだけです。この手術(治療)をすると生きられるかもしれません。どうしますか?」などの嘘ではない選択で、医者が患者側に治療の同意を迫ります。こんな脅迫のような同意を拒否できる人はまずいません。

これが日本の現状です。二足歩行のできない患者さん、オムツの必要な患者さん、今が平成何年かも思い出せない患者さんで、本人が意識清明時にDNRの書類を作成していても、医者がそれを覆して患者さんや患者家族に同意を強制し、緊急手術をすることなど日常茶飯事です。日本でピンピンコロリなど、夢のまた夢であることは、医療従事者なら百も承知しているでしょう。

どうしてそこまで医者は治療をしたがるのでしょうか。「せっかく身に着けた専門知識や技術を使ってみたいから」「治療した方が儲かるから」「患者のためになると思っているから」など理由はいろいろあるでしょうが、大きな一つに「裁判で訴えられたくないから」があることは事実です。日本では安楽死を認めると、法律で罰せられるからです。だから、必ずしも医者だけでの責任ではなく、司法にも責任がある、あるいは、安楽死を認めていない社会全体の責任でもある、と私は考えています。

それについて、次からの記事で論じます。