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セクハラによって浮気男が罰せられるようになった

「セクハラなんてものがあるから、職場恋愛が難しくなるんじゃないの? だから、未婚率が上がって、少子化が進むんだよな」

これは、私がある職場研修で本当に聞いた言葉です。私の前に座っていた女性が面白そうに笑っていたのも覚えています。私もつい最近まで、この発言と似たような考えを持っていました。

しかし、それは誤解でした。セクハラは誠実な職場恋愛を禁止するものでは決してありません。セクハラが職場恋愛を抑制しているとの誤解が蔓延しているのは、「部長、その恋愛はセクハラです!」(牟田和恵著、集英社新書)といった本があるからでしょう。この本では、次のようなセクハラ裁判例を載せています。

女性の方も熱を上げていた恋愛だったにもかかわらず、女性がふられた後、その恋愛はセクハラだったと訴えたというのです。裁判では二人がやりとりした親しげなメール、女性が男性に贈ったプレゼント、旅行先での仲良しの写真が次から次へと提出されます。客観的に考えて、女性も本気の恋愛をして楽しんでいたのは間違いありません。それにもかかわらず、ふられると、女性にとってそれらの記憶は辛い思い出になるので、結果、セクハラで慰謝料を払わなければならなくなった実例があるようです。

これでは「女性が嫌がればセクハラで、女性が喜んでいればセクハラでない」だけにとどまりません。「女性が喜んでいても、上司と部下の職場恋愛ならダメ」となってしまいます。「ふられてセクハラと訴える意趣返しが許されるのなら、ふられて元の関係に戻ろうとするストーカーがなぜ罰せられるのか!」と反論したくなる男性もいるでしょう。

私も最初にこの話を読んだとき、世の理不尽を嘆いたものですが、「弁護士が教えるセクハラ対策ルールブック」(山田秀雄・菅谷貴子著、日本経済新聞出版社)を読んでから、再度、「部長、その恋愛はセクハラです!」を読み返して、上の事件が有罪となる決定的な理由を知り、納得しました。「熱愛だったが、ふられたので訴える」など、原則、セクハラと認定されません。しかし、セクハラとなる場合もあります。それは、上司の男性が部下の女性をふって、別の部下の女性に乗り換えた場合です!

そんなのダメに決まっています! セクハラ裁判では、「自分と同じようなこと(熱愛後、捨てられ、別の女にうつっていく)が繰り返されるのは耐えられない」と訴えていたのです。それなら、男性が慰謝料請求されて当然と納得できるのではないでしょうか。ちなみに、男性が既婚者であれば、部下の女性と交際して別れた後に、別の部下の女性と交際していなくても、セクハラで慰謝料請求される場合もあります。それも当然でしょう。

こう考えると、セクハラ制度ができたことで、これまで泣き寝入りしていた女性が慰謝料を請求できるようになったのです。これは画期的です。道徳的には間違っているのに、法律的には許されていた浮気男がセクハラで慰謝料請求される時代になったのです。私が「セクハラ禁止法は強者をくじき弱者を許す制度である」と感じたのは、こんなところに根拠があります。