未来社会の道しるべ

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医薬分業は日本医療行政史上に残る大失敗である

 

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上のグラフが示しているように、20年前まで日本では病院で薬をもらうことが普通でした。病院で処方箋をもらった後、病院の外にある薬局に処方箋を提出して、薬をもらう手間がなかったのです。しかし、「医薬分業が海外では当たり前である」という主張がなぜか叫ばれ、日本でその制度を導入するメリットと費用の検討がろくにされず、病院ではなく薬局で薬をもらう仕組みがこの20年で爆発的に普及してしまいました。病院で患者さんに薬を出すより、薬局で患者さんに薬を出した方が儲かるシステム(診療報酬制度)に変更したからです。院内で薬を売る場合の利益は下げて、医師が院外処方箋を出す場合の利益を上げ、薬局での調剤料(薬剤師が薬を出す利益)を上げたのです。結果、もともと病院内にあった薬局は分離され、病院のすぐ前に門前薬局が林立してしまいました。患者さんに手間をかけさせる上、経済的にも土地活用的にも非効率であることは言うまでもありません。さすが超高齢社会日本というか、薬局数は一気に増え、同時期に急激に数を増やしているはずのコンビニの店舗数すらも既に抜き去っています。

そもそもなぜ医薬分業が主張されるようになったのでしょうか。それは日本の過剰医療の象徴のように言われる薬漬け(薬の過剰投与)を抑制することが目的でした。「病院で薬を売っているから、医者は薬を投与すればするほど儲かるため、不要と分かっているのに薬を出してしまう。だから、病院と薬局を分離させれば、医者は薬の過剰投与を止めるはずだ」と考えたわけです。この政策はある程度成功したようです。日本は他の先進国と比べて、まだまだ薬漬け医療が行われていますが、「以前はもっとひどかった」と医療従事者の意見は、私の知る限り一致しています。しかし、それもある程度まででした。医者は処方箋を出しさえすれば儲かるわけで(患者さんに対して薬が一つ以上必要だと判断すれば儲かるわけで)、処方する薬の数を減らしても別に儲けは変わらないため、減らす方向にはあまり進まなかったからです。特に、この制度では薬不要の患者さん(「感染症は栄養摂取と休養が最適の療法である」に書いたように風邪やインフルエンザで来院する患者さん含む)に薬を処方しない力は全く働かないことに注目すべきでした。

そもそも薬漬け医療を抑制させるために、医薬分業(病院から薬局を分離)する必要はあったのでしょうか。薬の有無にかかわらず疾患ごとに医療費を決める方法、あるいは、疾患ごとに適切な薬の数を制限する方法をとればよかったのではないでしょうか。実際、これらの方法を既に日本の保険診療では採用しており、これらの制度が薬漬け医療をより効果的に抑制していると思います。

こういった批判に対して出てくる医薬分業の大義名分が「複数のクリニックにかかっている患者もいるので、薬局で処方薬を一元管理して、患者に適切な服薬指導を行う」になります。しかし、これもお薬手帳を配布すればいいだけで、薬局でなくても病院内の薬剤部で実行可能です。この大義名分については、次の記事でさらに掘り下げます。