「日本は世界最高の高齢化先進国ですから、日本がどうやってその問題に対処していくのか、私たちは注目しています」
大学時代に留学生たちから、こんな言葉をよく聞きました。日本の高齢化率が世界最高だということは、どんな発展途上国から来た人でも知っており、将来、自分たちの国がそうなることも知っていました。
その留学生たちと話していて、当初、私はこう思っていました。
(おいおい、あなたの国はまず人口爆発を心配すべきだろう。小児が下痢で死んで若者がエイズや赤痢で死ぬ国なのに、高齢化の心配? 時代感覚おかしいよ)
後でよくよく調べてみると、時代感覚おかしいのは私の方だと分かりました。
ほとんどの発展途上国では人口爆発は収束に向かっています。特に女性が生む子どもの数(合計特殊出生率)は大量出血患者の血圧のごとく、青ざめるような急降下を示していました。また、死亡原因における感染症割合は20年か30年以上も前に減少に向かっており、代わりに慢性疾患によるガンや心疾患が増加して、国全体の最大の死因になっていました。そもそも、全世界での平均寿命は71.4才(2015年WHO統計)になっていることからして、世界全体で高齢化が進むことは疑いようがなかったのです。
日本は他の先進国が100年かかった高齢社会を24年の短期間で到達してしまった、と言う人が現在でもいますが、時代遅れな見解と断定していいでしょう。これに限らず、「外国は欧米の先進国だけ」という狭い視野で「他の先進国と比べて日本はおかしい」と語るのは21世紀になって17年も経過した今、十分に注意すべきです。日本がおかしいのではなく、「他の先進国」が異常だったのです。大多数の国は、日本と同じか、もっと早いスピードで人口爆発社会から高齢社会を迎えようとしています。
発展途上国の20才前後の学生が将来の高齢社会を心配するのは、なんら不思議でなく、彼らが現役世代のうちに高齢化率21%以上の超高齢社会に到達する可能性だって十分あったのです。「発展途上国→人口爆発、エイズや感染症死多い」という私の発想は、少なく見積もって10年、場合によっては20年か30年も遅れていたのです。「変化のスピードが恐ろしく遅い時代」と日本人を批判している私も、世界全体の流れに遅れている日本人の一人だったようです。