未来社会の道しるべ

新しい社会を切り開く視点の提供

非暴力を成功に導いたガンジーの実像

20世紀に最も人類に貢献した人物といえば、ガンジーだと私は考えています。もっと言えば、人類史上で彼ほど偉大な人物はいない、とさえ考えています。

暴力に対して非暴力で対抗する理想主義を主張するだけでなく、その実践により、大英帝国が絶対に手放したくなかった植民地インドの独立を達成させた功績は、歴史上比類ないものがあります。その理想主義に感銘を受けた人物にはアインシュタイン、マーティー・ルーサー・キング、ダライ・ラマネルソン・マンデラなどのノーベル賞級の著名人をはじめ枚挙に暇がありません。ガンジーがいなければ、理想的すぎると批判される日本国憲法9条もなかったでしょう。冷戦が第三次世界大戦にならずに終結した理由の一つには、ガンジーの非暴力の思想と功績が世界中に広まっていたことがあると私は考えています。

ただし、そんなガンジーも人間です。欠点はありますし、失敗を何度も犯しています。以下、「ガンジーの実像」(ロベール・ドリエージ著、白水社)を元に、ガンジーの欠点と失敗の代表的なものを示していきます。

ガンジーはロンドンに留学するほど裕福な家庭に育っています。イギリスで弁護士資格を得たガンジーはインドに戻って弁護士業を始めますが、すぐに挫折して、南アフリカに行きます。この南アフリカ滞在中に列車から放り出されるなどの理不尽な人種差別を受け、ガンジーは人権擁護の活動家に生まれ変わります。ただし、この人権擁護の対象はインド人だけでした。ガンジーの自伝には250ページも南アフリカに費やされているものの、南アフリカの圧倒的多数の被差別人種、黒人については全く触れていません。ガンジーにとって南アフリカの人種問題は、インド人が白人と対等になることが全てだったようです。

ガンジーの政治感覚は、今から考えれば、甚だしい見当違いが少なくありません。たとえば、1930年代のヨーロッパ訪問で、ガンジーユダヤ人問題について次のように発言しています。「ユダヤ人が消え去ったなら、彼らの人類に対する貢献は最大となる。私がドイツのユダヤ人の立場なら、亡命を拒み、苦しみの中に喜びを見出すだろう。もしもユダヤ人がこの考えを受け入れるなら、虐殺も喜びの出来事であろう」

西洋文明を嫌悪するガンジーの考えは全く科学に基づいてはいませんでした。特に健康についての考えは、ひどいの一言に尽きます。ガンジーの著作である「健康の手引き」は日本の巷に溢れるトンデモ本よりも非科学的で、もはや宗教本と言っていいでしょう。肉食は最も遅れた民族の食事で、お茶とコーヒーは脳を障害させ、カカオは感触を鈍くする毒を含み、牛乳や豆まで有害だとの主張には何の根拠もありません。ガンジーと同じ遺伝子と生活をしていない人以外、絶対に実践してはいけません。

ガンジーの教育論も極めて独善的です。科学技術を徹底的に批判していたガンジーは、教育に本の使用、つまり教科書の使用を認めませんでした。教育すべき唯一の技術は、手紡車と手織機だと本気で信じていたのです。恐ろしいことに、ガンジーはアシュラムという道場で、自身の息子を含めた何名かの子どもにこの教育方法を実践しました。当然のように、その子どもたちは文章もろくに読めない、知性も感性も精神力も弱い大人になり、挙句、ガンジー自身にも疎まれた者までいます。

マザー・テレサナイチンゲールもそうですが、ガンジーも伝記(偉人伝)ではその欠点がほとんど書かれていません。あるいは欠点も長所のように解釈する本まであります。どんな聖人でも欠点があり、失敗することは当たり前なので、子ども向けの伝記だとしても、正しい人間観を養うため、それらは欠かさず書いておくべきだと私は思います。