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新卒一括採用の功罪

私はこちらのブログで何度もカナダの自由と平等を称賛してきました。しかし、人生で重要な分岐点である就職については、カナダは必ずしも自由でも平等でもありません。

カナダで就職を目指そうとする複数の日本人およびカナダ人から聞いた言葉ですが、カナダでは「なにができるかではなく、誰を知っているかによって(by not what you do but who you know)」就職が決まるそうです。市の就職相談会に行くと、公務員が「就職したければ、頼りになる知人を作ることだ」と明言しいて、仰天したという日本人に会ったこともあります。カナダではコネ就職が一般なのです。

私の知る限り、日本のような新卒一括採用システムがある外国は韓国だけです。カナダではインターンシップ経験から就職する例を除けば(アメリカの一流企業に入るにはこれが一般的みたいです)、学生は在学中に就職活動をしません。卒業してから、就職活動を始めるのです。そうなると、卒業後に希望する求人がすぐ見つかるとは限らないので、とりあえず妥協できる範囲の仕事に就きます。そのうち、さらに条件のいい仕事の求人を見つけたら、募集に応じて、採用されたら転職します。転職は労働者の権利なので、使用者が理不尽な引き留めをすることもありません。だから、転職が多くなります。

一方、日本は新卒就職時にあらゆる企業、あらゆる職種の求人に応募できます。他の外国なら普通に遭遇する「希望する職種がなかなか求人をしてくれない」状況にはまずなりませんし、採用されれば「卒後にしばらく無職の期間がある」状況にもなりません。これだけでも十分な社会利益があるのですが、それ以上の大きな社会利益は「新卒一括採用だとコネ就職が難しくなる」ことでしょう。実際には新卒一括採用でもコネ就職はあるらしいのですが、不特定の大人数から選ぶ以上、明らかな能力差があるのにコネで採用するのは確実に難しくなるはずです。少なくとも日本の公務員が「新卒一括採用ではコネが重要だ」などと広言することは許されないでしょう。それくらい新卒一括採用は平等に近いシステムだと私は思っています。

ただし、日本の新卒一括採用システムだと、ほぼ全ての職種の選択肢を示して決めている以上、採用者がすぐに辞めることは認められません。だから、日本で転職の文化は根付かないままです。新卒採用を逃すと、就職口は激減します。

また、日本で就労条件のいい企業への求人が卒業前に必ず提示されるので、わざわざ自分で起業する必要は激減します。新卒一括採用は、間違いなく、日本で若者の起業を少なくしています。

「若者と労働(濱口桂一朗著、中央公論新社)」では、「日本の企業の人事担当者は、自分たちが毎日やっている人事や、賃金管理の仕事がどのような原理原則のもとに行われているかを理解していない」と断定しています。他の多くの日本の習慣と同様、新卒一括採用も、経済合理性を検証されることなく、伝統的になんとなく続いてきたようです。だからこそ、新卒一括採用の功罪については、日本人全員が意識して知っておくべきでしょう。「日本はなぜ再チャレンジが難しいのか」「日本ではどうして起業する者が少ないのか」といった問題の答えに、「新卒一括採用システムの浸透」がすぐに挙がらなかったら、本質を見誤っていると考えていいでしょう。