未来社会の道しるべ

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ハリスを好きになったバカな日本人

有名な不平等条約日米修好通商条約はハリスによって結ばれました。(余談になりますが、正確にいえば、この時に不平等な領事裁判権が認められたのではなく、それ以前にハリスと下田奉行の間で領事裁判権は認められています。その前に、オランダ使節長崎奉行の間で、領事裁判権がいつの間にか認められていたので、日米和親条約の「最恵国待遇条項」により、アメリカにも認められてしまったのです)

当時の日本人は、交渉担当者も幕閣も誰一人、この条約が不平等だと認識できなかったようです。しかし、もちろん、もう一方の当事者であるハリスは、それが日本にとって不平等であると十分に承知していました。なのに、それを日本側には伝えていません。堀田老中相手にアメリカの自由や平等や平和主義を長々と演説したのに、無知な相手を騙していたのです。

私が当時の日本人ならハリスに怒鳴りたいことはいくらでもあります。

「何度も蒸気船を江戸湾に侵入させて交渉しているくせに、アメリカが平和主義だとよく言えたものだ!」

「自分が結んだ条約の金銀のメチャクチャな交換条件でぼろ儲けしたそうじゃないか!」

「アメリカのいう自由とは、強者が弱者を騙す自由か!」

大局的に考えて、日本人にとってハリスなど憎む対象でしかありません。不平等条約によって被った日本の不利益を考えれば、こんな奴は極悪人と考えていいはずです。

しかし、歴史的事実として、当時、幕府の役人でハリスを好む者は少なくありませんでした。実際、ハリスは日本人に敬意を(ある程度)払っていました。日本人を「喜望峰以東の最も優れた民族」と日記にも書いています。ハリスが病気を理由に公使を辞任したいと述べた時、幕府はハリスの留任を望んだほどです。

しかし、これはハリスの表面だけを判断材料に下した評価でしょう。外見や性格(話し方や立ち居振る舞い)は毅然として立派だったかもしれません。日本人を見下してばかりいた他の西洋人と比べたら、日本人の長所を認める誠実さはあったのかもしれません。

でも、その実、日本人の無知につけこんで、不平等条約を結んでいるじゃないですか。また、その裏で、金銀の交換で私腹を肥やして、日本の富を奪っているじゃないですか。こんな奴のどこが誠実なんですか?

ハリスは条約交渉担当者の岩瀬や井上を「懸かる全権を得たりしは日本の幸福なりき。彼の全権等は日本の為に偉功ある人々なりき」と評価しています。これをもって岩瀬の有能さの証明としているような本や記事はいまだにあります。でも、よく考えてみてください。岩瀬は不平等だと分からずに条約をハリスと結んだ張本人です。ハリスは騙した相手を褒めているのです。こんな上から目線の評価を正当だと判断しますか?

この例にあるように、結局のところ日本が損をしているのに、多くの日本人がその騙した西洋人を好きになったり、尊敬したりする伝統は残念ながら現在も日本に続いています。今浮かんだ具体例として、繊維交渉や中国外交で日本を騙したキッシンジャーがいます。知らない日本人、あるいは気づいていない日本人もいると思うので、いずれ記事にしたいです。